低価格パソコンの台頭

-FIC販売のCTO Basic 899-

岩村 益典


 数年前より,1000ドルPCや500ドルPCなどの低価格マシンが提唱され,リリースされてきました.基本的には,ネットワークでのクライアントを前提として,CD-ROMドライブなどを接続しないなどの構成をすれば,比較的実現は容易でした.しかし,単体でも使えるマシンとしては,実現困難でした.おそらく,コンパック社の2210あたりが,単体でほとんどすべての機能を実現できる1000ドルマシンのはじめであろうと思います.
 個人で購入するパソコンと企業で購入するクライアントPCでは,選択基準が異なります.しかし,ベースになるスペックはほぼ同じと考えられます.
 最近,おまけがついて,そこそこの価格のPCではない,いわば質実剛健というか必要最低限のスペックのマシンが売れ始めています.ここでは,その中の1つを取り上げ,市場での位置付けを考えてみます.

コンパック製2210

 コンパック製2210は,CPUにサイリックス社のMediaGXを採用したローコスト1000ドルPCです(写真1).MediaGXは,サウンドやグラフィックを内蔵しているため,サポートするチップ1個で別途グラフィックカードやサウンドカードがなくてもパソコンを構成することができます.そのため,低価格マシンが実現できたのです.しかし,ほかのソケット7用CPUと互換性はありません.
 2210に搭載されているのはMediaGXの180MHzで,MMX(*1)機能は搭載せず,ベンチマーク結果では,Pentiumの150MHzくらいのパフォーマンスが得られました.現在は,MMX機能も搭載したMediaGXmの300MHzまでのシリーズがリリースされています.
 しかし,1999年にはIntel製810(Whitney)など,グラフィック&サウンドを内蔵した統合型チップセットがリリースされたこともあり,互換性の低いMediaGXの活躍する舞台は少なくなってきています.それでも,発熱や消費電力,PCB(プリント基板回路)上のレイアウトなどの関係もあってか,低価格ノートブックマシンで活躍しています.また,セットトップボックスなどの組み込み用途に活路を見出そうとしています.
 2210は低価格を実現するための工夫として,専用33,600bpsモデムを内蔵している以外は,拡張バスを搭載していません.したがって,大容量メディアやネットワークなどに接続したい場合,パラレルポート接続で実現するしかないなどの問題もありました.
 しかし,近年のCPUなどの低価格化に伴い,その後複数のメーカーが1000ドル以下のマシンをリリースするようになりました.
 1998年後半から,AMD社のK6-2が量産され始め,大手パソコンメーカーでも採用されるようになりました.その急激な市場占有率の増加に反応し,インテル社もCeleronの価格を下げていき,市場を奪回しつつあります.
 図1は低価格パソコンの移り変わりの様子です.

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CTO Basic 899の仕様

 最近の不況の中,FIC販売(株)と家電量販店の(株)ヤマダ電機の共同の企画により,CTO Basic 899が誕生しました.表1に仕様を示します.
 筐体はデスクトップ横置きタイプです(写真2).サウンド機能も搭載され,ハードディスクも4.3GB,CPUはCeleron 366MHzと現在のビジネスユースには十分なスペックです.ネットワーク機能は搭載されていませんが,ISA/PCIバススロットが空いているので,ネットワークカードを取り付けるのも簡単です.また,USBを利用してネットワークを実現することもできます.

<表1>CTO Basic 899の仕様 <写真2>CTO Basic 899の外観
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 ディスプレイ付きのこの価格は本当に驚きです.あえていうならスピーカが搭載されていないことくらいです.この点についてFIC販売に尋ねてみたところ,ビジネスユースではスピーカが不要である場合も多いし,ヤマダ電機の店頭には,いろいろなスピーカがあるので,必要に応じて購入して欲しいということでした.
 また,コストの関係から標準で搭載しているメモリは32MBとなったそうです.メインボード上にはDIMMスロットがひとつ空いているので,増設は容易です.
 なお,この商品については,FIC販売(Tel;03-5461-2181)へ問い合わせてください.

CTO Basic 899リリースの背景と意義

 この商品について,FIC販売の広報に取材をしました.このCTOは型落ちを安く提供するという趣旨ではなく,信頼性の高い最新のパーツを組み合わせて最新のマシンを提供し,なおかつ低価格を実現しているとのことです.付属ソフトウェアはWindows 98(写真3)だけで,メインメモリも32MBとなっており少し物足りなさを感じます.しかし,ディスプレイが付属していますし,購入してすぐにインターネットへの接続もできるので,ユーザーにとっては基本的なところは押さえられていると言えます.
 実際にスペックを見ても,チップセットには性能とコストのバランスが取れたApollo Pro Plusを採用していますし,VRAMも4MBを利用できるSiS6326と無難な線を攻めています.なかなかにくい製品構成ではないかと思います.
 なお,このCTO 899自身はヤマダ電機向けモデルなのでメモリが32MBとなっていてコストを抑えていますが,FIC販売から直接購入する場合には個別見積もりもあり得るようです.発売は1999年4月20日で,ゴールデンウィーク前には1,000台を完売したそうです.その後1週間で1,000台以上のペースで出荷しているようです.
 PCのパワーユーザーから見るとタワー型筐体でないところが奇妙なのですが,デスクトップであるところが従来のPC-9800シリーズユーザーからするとユーザーフレンドリな感じがします.また,ハンドメイドっぽくない状態を維持しつつ,しかしハンドメイドっぽいという一面を持っています.

● 余計なものを排除している実用的なこのマシンを誰が買うのか
 このCTOシステムは,2000年問題への対応やWindows 98に更新したいというような法人での買い換え向けに多く出荷されているようです.CTOとはChannel to Orderという意味で,あくまでも直販はFIC販売であるが実質ではホワイトボックス(*3)のブランドであるということです.
 その意味でいうと,CTOは新しいブランドと考えるべきで,今後大手量販店やシステムベンダーへ供給していくという予定のようです.ヤマダ電機は第1号ということです.FIC自体は,直販で中小や中堅企業を対象としているようです.
 このような低価格が実際に実現できるのか,と筆者は大阪のショップの店長をしている友人に尋ねましたが,実際にはいくらがんばっても98,000円が限度だとのことでした.実際に90,000円以下でこれだけのもの
が出せるのは,LEOという名称の独自システムを持ち世界的にビジネスを展開しているFICだからこそ実現できたといえます.
 この企画は,今年の3月31日に決まったあと2週間でヤマダ電機へ出荷を始めたということです.納品の速さも売りだとのことです.販売台数についても,ヤマダ電機自体はパソコンを年間23万台販売しています.CTOを取り入れることで確実にその数は伸びるだろうというヤマダ電機副社長さんの話だそうです.サポートについても心配はなく,保証書とサポート連絡先などすべてが付属しています.

以下略


copyright 1999 岩村 益典