第2特集 急速な普及を始めたDVDの世界

第3章
DVD-Videoで使われる
MPEG-2規格

(株)日立製作所 幸田 恵理子

画像圧縮の歴史

 H.261という動画圧縮方式がITU-Tによって制定されたのは1990年でした.これは,動きの少ないテレビ会議などに使用することを目的として作られました.このH.261を蓄積メディア用に修正したものがISO/IEC 11172,つまりMPEG-1です.
 MPEG-1は,当時のCD-ROM・DATなどの読み出し能力である1.5Mbpsを基準として,それ以下で圧縮できるように規格が作られました.また,H.261が対象としていた通信系アプリケーションではなく,蓄積系アプリケーションを対象としたため,ビットストリームの途中から再生できるようGOP(Group Of Pictures)という考えが導入されました.また,通信ではないため圧縮時のリアルタイム性は重視されず,再生がリアルタイムでできればよいという考え方となりました.このため,圧縮にパワーが必要な双方向符号化の導入や,再生時にデコーダに負担をかけないよう,ピクチャの並び順を再生しやすい順に変更して蓄積するなどの工夫がされました.
 蓄積系をターゲットとしたMPEG-1に対して,蓄積,通信,放送への対応を考慮したのがISO/IEC13818 (MPEG-2)です.MPEG-2では,MPEG-1にはなかった高品質の画像を符号化するために,さまざまな画像フォーマットへの対応,インターレースへの対応,スケーラビリティなどを導入しました.また,通信に利用しやすいようなマルチプレクス(多重化)方式も導入されています.
 MPEG-1,MPEG-2より,さらに高圧縮化をしてオブジェクトベース符号化を導入したものが現在制定中であるISO/IEC14496(MPEG-4)です.MPEG-4は,MPEG-1,2に比べ幅広いビットレートの圧縮をサポートしています.ビデオの圧縮率は,MPEG-1, MPEG-2と比較して1.2〜1.3倍高くなっています.また,オーディオはMPEG-1が32Kbpsから448Kbpsなのに対してはるかにビットレートの幅が広く,2Kbps程度から圧縮可能です.
 MPEG-4は低ビットレートとオブジェクトベースの圧縮が特徴なので,VHS程度の画質のMPEG-1や放送品質のMPEG-2とはすみ分けがされるのではないかと予想しています.
 これらの圧縮形式の関係を,図3-1に示します.

Dvd3-1.jpg (23719 バイト)

MPEG-2フォーマットの特徴

 MPEG-2はMPEG-1と同様に,システム,ビデオ,オーディオの3レイヤから構成されています.

● システム
 システム(マルチプレクスの方式)は,MPEG-1と違って2種類あります.1つはPS(Program Stream),もう1つはTS(Transport Stream)です(図3-2,表3-1).MPEG-1システムとよく似ているのはPSのほうで,蓄積にはこちらがよく使われます.PSとTSの大きな違いは,パケットサイズ(ビデオとオーディオを分割する単位)です.
 TSは,放送,通信向けのマルチプレクス方式です.通信に利用されるため,固定長で188バイトというとても小さな単位でビデオとオーディオを分割しマルチプレクスします.また,エラー検出や繰り返し伝送をサポートしています.CS放送などに使われる時には,複数のプログラム(番組)がマルチプレクスされて伝送されます.デコーダ(視聴者)側では,この中から目的のプログラムを選択して再生します.
 PSはMPEG-1と同様に,蓄積メディアに使用されます.このため,規格は非常にMPEG-1システムと似ています.実際には,1パケット2KB程度でマルチプレクスされる場合が多いようです.DVDにはPSが使用されます.
 どちらもビデオストリーム,オーディオストリームのビットレートに比例してマルチプレクスされています.

<図3-2>PSとTSのストリーム構造 <表3-1>PSとTSの比較
Dvd3-2.jpg (29466 バイト) Dvd3-3.jpg (12306 バイト)

● ビデオ圧縮方式
 MPEG-1に比べてインターレース画像,スケーラビリティへの柔軟な対応などが取り入れられています.しかし,MPEG-1との上位互換は保っています.
(1) 圧縮アルゴリズム
 ビデオの圧縮アルゴリズムはMPEG-1とほぼ同じです.両者ともDCT(Discrete Cosine Transform:離散コサイン変換)および動き補償を基本としています.圧縮アルゴリズムの概略を図3-3に示します.
(2) プロファイルとレベル
 MPEG-2は放送・通信・蓄積と多様なアプリケーションに対応するために,その仕様は数多くのバリエーションを持ちます.仕様を体系化するために,レベルとプロファイルという2つの概念を導入し,この2つの組み合わせで圧縮方式を区別できるようになっています.
 レベルとは,画像フォーマットサイズなどを区分したもので,図3-4に示す4段階があります.
 プロファイルとは符号化方式の機能を区分したもので,図3-5に示す5段階があります.
 これらを組み合わせて,デコーダのクラス分けをしています(表3-2).これは,MPEG-1に比べてMPEG-2の規格が広範囲なため,デコーダがサポートすべき範囲を絞りこむ時の参考として制定されました.
 MP@MLはそのうち中心的な組み合わせとなるもので,4:2:0形式の映像を15Mbps以下で伝送することを目的としています.また,プロファイルとレベルの組み合わせによるデコーダの性能は,図3-6のように規定されています.つまり,HP@HLデコーダは,すべての範囲のビットストリームを再生できなくてはいけません.逆にSP@MLデコーダの場合は,MP@LLとSP@MLだけが再生できればよいことになります.
(3) ビデオ圧縮方式の比較
 次に,MPEG-1とMPEG-2の圧縮率や利用方法などの比較を表3-3に示します.
 MPEG-2はデジタル動画のデータ量を10分の1から20分の1程度に圧縮します.

以下略


copyright 1999 幸田 恵理子