最近の組み込み機器向けCPUの充実ぶりには目を見張るものがあります.一体どのCPUを組み込み機器に採用すれば良いのか,途方に暮れてしまうほどの状況といえるでしょう.選択の幅が広がるということは,開発者やユーザーにとって素晴らしいことですが,一方で開発環境もCPUごとに専用のものが提供されているという問題があります.
開発者は新しいCPUの仕様や機械語を修得することで精一杯ですから,開発環境まで一から勉強しなければならないとなると,あまりにも負担が大きすぎます.かといって,これまでのノウハウが蓄積されているからという理由でx86やSuperHなど特定のアーキテクチャに頼っているようでは,技術革新の波を乗り切ることはできません.最小限の負担で,豊富なアーキテクチャに柔軟に対応できる体制が必要とされているのです.
そこで登場するのが本特集で紹介しているGNU開発ツールです.GNU開発ツールがサポートするCPUは現在数十種を越えており,日々新しいアーキテクチャへの対応が世界中で進んでいます.
ただし,GNU開発ツールは一言で表現すれば「無愛想」に尽きます.腕は抜群に良いけれど,おっかない寿司職人といったところでしょうか.しかもこの大将は「客を見て」商売するので,舌の肥えていないひよっこがやって来ると,どこにでもあるようなネタしか出してくれません.何も知らない人達は,それでも「評判どおりおいしいね」と喜んで帰っていきます.けれども,本当においしいネタは「今日はどんな魚が入っているの?」,「だったらそれ天ぷらでね」という具合に大将と「会話」しなければ,決して口にすることはできないのです.
少々比喩が過ぎました.GNU開発ツールは最近流行している統合開発環境のように,見栄えが良く,ユーザーに優しいものではありません.統合開発環境が安全包丁とすれば,GNU開発ツールは鋭利に研ぎ澄まされたプロのための道具です.ユーザー側には使いこなすための深い知識と技術が要求されます.しかし,ひとたび使いこなしてしまえば,これほど頼りになる道具は世の中に二つと存在しないでしょう.しかも,複数のアーキテクチャに対して同じ道具で対応することが可能なのです.GNU開発ツールの真価はクロス開発環境で発揮されるといっても過言ではありません.このツールをまだ手に取っておられない方は,ぜひともこの機会に挑戦されてはいかがでしょうか?
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