3. 物理層によるカテゴライズ-光ファイバ

 バックボーン,アクセスネット,ローカルネットという分類のほかに,ブロードバンド技術が使用する物理層,すなわち伝送媒体に着目して分類する方法がある.一般に使用されている伝送媒体には,光ファイバ,同軸ケーブル,シールドのないより対線のUTP(Unshielded Twisted Pair),電話線,電力線などがある.

● 光ファイバ

1) 光ファイバの種類

 光ファイバは,1970年代の低損失化の成功と半導体レーザの長寿命化によって,活躍の場が一気に広がった.これは,内部のコアとそれをつつむクラッドから構成されるケーブルで,コアの屈折率をクラッドのそれよりも高くすることによって光のエネルギを閉じ込める(図4).

 光ファイバは伝播モード(ある特定の角度でクラッドに当たった波の組だけが位相の打ち消し合いが起こらないので消滅しない.その伝播していく波の組のこと)で大きく二つに分類することができる.一つは,伝播モードが一つしか存在しないシングルモードファイバ,もう一つは異なる位相の波が複数存在するマルチモードファイバである(図4).

〔図4〕光ファイバの構造

 光ファイバは,その使用材料によっても分類できる.一つは,石英系であり,長期安定性や低損失が得やすいことから通信に広く用いられている.もう一つはプラスチック系で,取り扱いやすいため,家電や自動車内のネットワークに使用されつつある.

 石英系ファイバには,三つの損失の小さい波長帯域がある.第一の帯域は820から850nm付近,第二の帯域は1300nm付近,そして,第三の帯域は1550nm付近である.通信にはこれらの帯域を使用する(図5).

〔図5〕三つの帯域

 第一の帯域は現在ではなだらかになっているが,1980年以前の技術では,これよりも長い波長の部分(図では右側)は損失がしだいに大きくなる領域だった.このため最初に使用されるようになったのは,この領域である.

2)マルチモードファイバ

 マルチモードファイバは,コアの直径が50から62.5μm,外径が125μmであり,おもにLANに用いられている.使用される波長は850nmだが,1310nmの波長が使用されることもある.後者は,たとえば10Mbpsイーサネットの10Base-FL,100Mbpsイーサネットの100Base-SXや100Base-FX,ギガビットイーサネットの1000Base-SXや1000Base-LX,100Mbpsの転送速度をもつリング状のネットワークであるFDDI(Fiber Distributed Data Interface)などに採用されている.

 なお,10Mbpsや100MbpsのイーサネットはUTPで利用されることが多いが,距離を延ばしたり,電磁誘導を避けたい場合には,光ファイバを使用する.光ファイバの延長距離は,10Base-FLの場合,半二重モードで500m程度,衝突のない全二重モードで2km程度となっている.また,100Base-FXの場合,半二重で412m,全二重で2kmまで延長できる.1000Base-SXやLXの場合には,550mまでとなっている.

 ここで半二重モードとは,送信中はパケットの衝突をモニタし,衝突した場合には再転送を行う,イーサネット本来のCSMA/CD(Carrier Sense Multiple Access with Collision Detection)方式で送受信を行うモードである.全二重モードとは,ハブとの対向接続などをした場合などに可能となる.送信と受信が同時に行えるモードのことである.

 表1に,ファイバを使用するおもなイーサネットの規格をまとめておく(詳しくは本特集第5章を参照のこと).

3)シングルモードファイバ

 シングルモードファイバは,コア直径が10μm,外径が125μmであり,長距離,中距離,短距離の通信システムに広く使用されている.使用される波長には,1310nm系と1550nm系とがある.1310nm用には,1310nm付近の波長分散をゼロにした1.3μm標準シングルモードファイバが使用される.

 ここで,波長分散について説明しておく.これは,光パルス信号が伝播していくうちに波形が崩れて信号の正しい判別ができなくなる現象であり(図6),これには材料分散と構造分散とがある.

〔図6〕波長分散

 前者は,波長の長い光が速く伝播し,波長の短かい光が遅く伝播することによって光パルスの形が崩れてくるもので,屈折率が波長によって異なることが原因である.後者は逆に,波長の長い光が遅く,短かい光が速く伝播することによって光パルスの形が崩れてくるもので,ファイバの構造が原因である.

 両者は反対の性質をもつので,打ち消し合いによって波長分散をゼロにできる.それを1310nm領域にもっていったのが標準シングルモードファイバである.これは,無中継で最大40kmまで延長でき,中距離や近距離に使用されている(延長距離は,使用する光トランスミッタやレシーバによって変わる.15kmまで延長できるshort reach,40kmまで延長できるlong reachなどの種別がある).

 たとえば,市内の電話局間ケーブルや電話局からオフィスや家庭までのアクセスネットに使用される.なお,LANでも,シングルモードファイバを利用すれば距離を10kmほどまで延長することができる.このため,これをアクセスネットとしてそのまま提供するサービスもある.

 1500nm帯用には,この付近での波長分散をゼロにした分散シフト光ファイバ(DSF:dissipation shifted fiber)がある.これは,無中継で80kmの距離まで延長でき,都市間などの長距離用に使用されている.

 最近では,分散がセロになる帯域を1550nmから少しずらしたノンゼロ分散シフトファイバ(NZDSF:non-zero dissipation shifted fiber)も開発された.これは,DWDM向きのファイバで,DSFを使用した場合にはファイバの非線型性によって波長間の干渉が発生してしまうというDWDMの問題を抑制するために開発されたものである.

4)シングルモードファイバのアプリケーション

 シングルモードの光ファイバを使用しているものとして,全世界の通信網のベースであるSONET/SDHがある.また,音声やデータなどの異なる性質のネットワークを統合する目的で開発されたATMはSONET/SDH上に構築されているので,これもシングルモードファイバを使用するものといってよいだろう(なお,これらは,マルチモードファイバ上でも使うことができるが,最大延長距離は500m〜2kmと短かくなる).

 一方,これらのバックボーンだけではなく,アクセスネットでもシングルモード光ファイバを使用する.たとえば,1.5Mbpsや6Mbpsなどの低速専用線や,家庭やオフィスまでを光ファイバで結ぶFTTHである.

 FTTHには,LANに使用されているイーサネットを延長した形でそのまま使用するサービスと,PON(Passive Optical Network)と呼ばれる方式とがある.PONは複数の加入者を光のレベルで一つにまとめて収容する方法である.光の分岐と集合には受動的な素子である光カプラが使用される.すなわち,アクセスポイントと加入者の間には電源が必要ない(図7).

〔図7〕FTTH


 ファイバ上の信号の多重化は,1550nmと1310nmのWDMを使用したうえで,各加入者への帯域の振り分けを時分割で行うか,ATMセルによる統計的多重化で行う.

 また,シングルモードのファイバを使用するものとしてDWDMがある.最近のインターネットの爆発的な成長によって,ルータ間を結ぶバックボーンの帯域は不足ぎみである.そのためには,ファイバを敷設して数を増やすか,信号のさらなる高速化しかない.ところが前者は,そのための建設費用と時間がかかる.また,現状の伝送システムでは光をいったん電気へ変換して処理しなければならないので,半導体の動作時間や電気信号の伝播時間などの原因で高速化に限界がある.

 そこで,1本の光ファイバに単一の波長の信号を通すこれまでの方式と違い,多数の波長の光を通すことで多数のファイバを引いたのと同じ効果を得るDWDMが開発された.

 DWDMでは,ビットレートに無関係にそのまま中継する2R(Regenerating, Reshaping)と,クロックを再生してタイミングを取り直し,再度光に変換する3R(Regenerating, Reshaping, Retiming)とがある.前者は,SONET/SDHやギガビットイーサネットなどのどのような信号でも通すことができるが,多段接続では品質が落ちる.しかし,後者はフォーマットを選ぶものの信号の品質を高く保つことができる.

1. はじめに

2. ブロードバンド技術のカテゴライズ
バックボーン,アクセスネット,ローカルネット

3. ブロードバンド技術のカテゴライズ
物理層によるカテゴライズ-光ファイバ

4. ブロードバンド技術のカテゴライズ
物理層によるカテゴライズ-銅線を使ったもの

5. ブロードバンド技術のカテゴライズ
物理層によるカテゴライズ-電波を使ったもの


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