2. ブロードバンド技術のカテゴライズ
バックボーン,アクセスネット,ローカルネット

 ここでは,いくつかの代表的なブロードバンド技術を議論の対象とする.たとえば,1本の光ファイバでいくつもの異なる波長の信号を通すWDM注1,世界の通信網の基礎となっているSONET/SDH,データを細かいセルに分割して音声やデータを転送するATM(Asynchronous Transfer Mode),CATV網を使ったCATVインターネット,従来の電話線を使って数Mbpsの伝送速度を実現するxDSL(Digital Subscriber Line)注2,光ファイバを使用して家庭やオフィスを結ぶFTTH(Fiber To The Home),ギガビットイーサネット,無線LAN,次世代携帯電話などである.

 これらのブロードバンド技術を理解する早道は,まずそれらをいくつかのカテゴリに分類することである.たとえば,広域バックボーン(WAN)系,ローカルネット(LAN)系,アクセスネットワーク系という視点である.もともとLANとして開発された技術がそのままWANで使われていたり,その逆の場合もあるが,前記のカテゴライズであれば,技術の進展を系統だてて理解することが容易であろう.

 図2に,ここでの議論の対象となる代表的なネットワークの概要を示す.まず,オフィスや家庭内にあるコンピュータはLANで相互接続されている.代表的なLANとして10Mbps,100Mbps,1Gbpsのイーサネットがある.このLANをISP(Internet Service Provider)などのインターネットバックボーンに接続するのがアクセスネットワークである.

〔図2〕ネットワークの構成)

 その代表としてxDSL,ATM,専用線,CATV,FTTHなどがある.その速度は,数百kbpsから数Mbps程度である.アクセスネットとLANの接続には通常はルータが使用されるが,単一のPCを収容する場合には,ブリッジによる接続が行われることがある.ルータは,パケット中の転送先IPアドレスを判断して中継先を決定(ネットワークレイヤでの処理)するが,ブリッジは透過的に,PCからのすべてのパケットを上り回線に出し,POPからのパケットをそのままPCに返す.

 アクセスネットのもう一方は,ISP側のルータを介してアクセスポイント内のLANに接続される.なお,この部分の構成は使用するアクセスネットによって異なる場合がある.アクセスポイントは,「POP(Point of Presence)」など,さまざまな名前で呼ばれる.アクセスポイントから先は,ISP内のバックボーンである.

 ISP内のLANは,ルータを介して遠隔地にあるほかのアクセスポイントやほかのISPなどに接続される.それには,数Mbpsの専用線やATMなどの回線が使用される.そして,大規模な場合には,たとえば数百Mbpsから数Gbpsの超高速専用線を使用する.代表的なものとしては,SONET/SDHの52Mbps,155Mbps,622Mbps,2.4Gbps,10Gbpsなどの回線がある.また,SONET/SDHではないが,米国仕様の45Mbpsの回線も使用される.これは,「T3」と呼ばれている.

 このように,性質の異なるリンク層のプロトコルあるいは物理層のケーブルが使用されていても,どのコンピュータ同士でも通信ができる.つまり,全体が一つのネットワークとして稼働する.それは,インターネットのプロトコル(通信手順のこと)であるTCP/IP(Transmission Control Protocol/Internet Protocol)群が,特定のリンク層を想定していないからである(極端な話,糸電話でも使えるようになっている).IPデータグラム(ネットワーク層におけるパケットのこと)は,その下位のリンク層のフレーム(リンク層におけるパケットのこと)のデータ部(ここをペイロードともいう)にそのまま入れる(図3).これをエンキャプシュレーション(encapsulation)と呼ぶ.

〔図3〕エンキャプシュレーション)

 そのフレームを受け取ったルータはIPデータグラムを抜き出し,それを別のリンク層に固有のフレームにエンキャプシュレーションする.このようにして,IPデータグラムは異なる種類のリンク上を中継され,異なる種別のリンク層をまたぐことが可能となる.その結果,すべてのコンピュータ間で通信(エンドツーエンドの通信)が実現される.


注1:WDMは,1310nmと1550nmの二つの光を使っておもに複数のファイバを1本でまかなう方式をいう場合と,1550nm帯域の多数の波長の光を使用して広帯域の通信を提供する方法をいう場合とがある.これらを区別するために,後者をDWDMと呼ぶ.また,最近では,後者の波長密度を下げて技術的な条件を緩め,安価なものとしてアクセスネットにも使用しようというWWDM(Wide Wavelength Division Multiplexing)もある.

注2:xDSLは,ADSL, SDSL, VDSL, HDSLなどのさまざまなDSLの方式をまとめて指す.


1. はじめに

2. ブロードバンド技術のカテゴライズ
バックボーン,アクセスネット,ローカルネット

3. ブロードバンド技術のカテゴライズ
物理層によるカテゴライズ-光ファイバ

4. ブロードバンド技術のカテゴライズ
物理層によるカテゴライズ-銅線を使ったもの

5. ブロードバンド技術のカテゴライズ
物理層によるカテゴライズ-電波を使ったもの


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Copyright 2001 村上健一郎