マイクロプロセッサがもたらした社会と経済の変化

 マイクロプロセッサは,その誕生と同時に,二つの顔をもつようになりました.それは知的能力とコンピューティングパワーです.およそ人間の発明したもので,マイクロプロセッサほど短期間のうちに大きな影響を与えたものはほかに見当たりません.

 マイクロプロセッサが提供する知的能力は,家庭電化製品,オフィス機器,自動車,通信など,あらゆる分野に広範囲に大量に活用されています.18世紀中葉に,イギリスで始まった動力による第1次産業革命は,人類の機械力学的能力の限界を事実上なくしました.次に,19世紀中葉にアメリカで始まった電気による第2次産業革命は,通信や放送や電化製品によって速度と快適さのある近代文明を人類にもたらし,大規模なエレクトロニクス産業を築き上げました.そして,シリコン小片に乗った知的能力をもったマイクロプロセッサによる第3次産業革命は,新たなる文化を創造するための『知への道具』を人類にもたらしました.マイクロプロセッサの誕生により,いかに品質を高くかつ安く物を作るかといった生産という文明を重視した時代から,何を作るかといった「創造という文化を重要視する時代」を登場させました.

〔写真1〕
嶋 正利教授

 マイクロプロセッサはコンピュータ会社が独占していたコンピューティングパワーを創造に挑戦する若い開発者に解放し,パソコン,ワークステーション,ゲーム機を登場させ,ソフトウェア産業を大きく花開かせました.

 現在,第2次大戦後に日本が強力に押し進め,高度成長をもたらした高度技術・大量生産という文明の創造と発展にかげりが出始めています.その一方で,アメリカはパソコンという文明の上に,OS,アプリケーション,マルチメディアなどの文化を創造し発展させてきました.

 日本が今のまま生産という文明を重要視しすぎると,日本が莫大な資金を投入して苦労して築き上げた文明の上に,米国の文化を構築するような体制になってしまい,大きな付加価値を日本が享受できなくなってしまいます.また,アメリカで開発された技術を重要視しすぎると,翻訳されたアメリカの文化が日本に浸透し,アメリカ流の表現方法,思考方法,仕事の進め方,価値観が主流となり,会社や社会のあり方までが変化し,日本本来の文化が消滅してしまう恐れがあります.

 現在,学生や技術者が養成すべき能力は,問題を見つけ,本質を見抜き,創造するための,考え出す能力(知恵)であると考えています.

歴史的写真館

〔写真A〕
初のマイクロプロセッサ4004


歴史的写真館

〔写真B〕
4004を使った電卓

インデックス

マイクロプロセッサがもたらした社会と経済の変化
SoC時代におけるマイクロプロセッサの理想的な教育
Java言語を使ったサイクルアキュレイトプロセッサモデリング

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Copyright 2002 嶋 正利