前回までに,インターネットを構成するTCP/IPソフトウェアと,伝送路としてのSLIPやイーサネットについて紹介しました.インターネットは,これらの技術を使って作られた,世界でいちばん大きなコンピュータネットワークである,と言うことができます.今回は,これらの要素がどのように組み合わされて実際のインターネットが作られているかについて解説します.
- ネットワーク用語
-
図1に,SLIPとイーサネットを使ったTCP/IPネットワークの例を示します.この例を使って,まず通信やインターネット業界でよく使われる用語を説明します.
●物理層
SLIPでは,RS-232-Cというハードウェアを使って,コンピュータとコンピュータを物理的につないで,IPパケットを伝送します.また,イーサネットでは,10Base-5や100Base-TXといった物理的なケーブルを使ってコンピュータ同士をつないで,IPパケットを伝送します.
このようにコンピュータ同士をつなぐハードウェア,つまり物理的な“部分”を物理層と呼びます.物理層に属する“もの”としては,コネクタの大きさや電圧,電流,変調速度や変調方法など,アナログ的な要素が規定されています.
例えば,10Base-Tでは,RJ-45というコネクタで,1番ピンと2番ピンが受信データで,10Mビット/秒,電圧は… といったように決められています.イーサネットの規格はIEEEという機関で管理されており,IEEE802.3という規格で10Base-Tが,IEEE802.3uという規格で100Base-TXが規定されています.
●データリンク層
SLIPはこれまで何度か連載に登場しましたが,RS-232-Cという伝送路を使ってIPパケットを伝送するための方法(やり方,プロトコル)です.RS-232-Cでは2台のコンピュータをつなぐことしかできないため,SLIPでも2台のコンピュータをつなぐことしかできません.
イーサネットは,イーサネットケーブルという伝送路を使ってIPパケットを伝送するプロトコルです.イーサネットケーブルには,10Base-5や10Base-T,100Base-TXなどの種類があって,伝送速度がそれぞれ異なります.
このように,IPパケットをSLIPやイーサネットのような伝送路を使って伝送する“部分”をデータリンク層といいます.
図2のようにデータリンク層に属する“もの”では,上位層が送信を要求するパケットを,どのように物理層を使って伝送するかが規定されています.
イーサネットでは,DIXイーサネット方式とIEEE802.3方式があります.
DIXイーサネット方式は古くからある方式で,現在でも主流となっています.DIXイーサネット方式での,IPパケットの伝送方法を図3に示します.
まず,送り元と送り先のイーサネットアドレスがあり,そのあとにデータがIPパケットであることを示す0x0800という16ビットの値が続きます.そして,この後ろに送りたいIPパケットが続きます.
IPパケットの後ろには,イーサネットのパケットがなんらかの原因で壊れていないかどうかをチェックするための32ビットの検査符号があり,これでイーサネットパケットが完結します.
このように,IPパケットはイーサネットパケットのデータとして送られることになります.これはちょうどIPパケットを封筒に入れて,その封筒の表には送り元と送り先の住所を書いて,郵便という物理層を使って送り届けることに相当します.
イーサネットパケットを受け取った側のデータリンク層の部分では,これと逆のことが行われます.
まず,封筒の住所が自分の家の住所であるかどうかを確認して,正しければ封筒を開けます.封筒の中身がIPパケットであれば,TCP/IPソフトウェアにそのIPパケットを渡します.封筒にはIPパケット以外にもほかのパケットも入れることができます.そのため,どのような種類のパケットであるかどうかを受け取った側がわからなくてはなりません.そこで,送り側で0x0800という「IPパケットですよ」という印をつけて送ります.
〔図1〕SLIPとイーサネットパケットで作ったTCP/IPネットワーク
|