10.周辺


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D-Aコンバータ




Keywords:重み付け抵抗法,ディジタル信号,D-A,A-D,基準電圧,加算器,バイナリ・コード,アナログ・スイッチ

D-Aコンバータは,
ディジタル信号をアナログ信号に換えて出力するものです.最も基本的でよく使われる方法は,重み付け抵抗によるものとラダー(はしご型)抵抗回路です.

D-Aコンバータに入力するのはディジタル信号そのものではなく,精度を上げるために別に設けた基準電圧をアナログ・スイッチでON/OFFして使うのが一般的です.このため出力のアナログ量は,温度,回路の浮遊容量,OPアンプの帯域幅,基準電圧の変動,アナログ・スイッチの動作状態などによってさまざまな変動を受けるので,規定出力との誤差を生じます.

変換精度は,比較用に定められた規定電圧と実際の出力電圧との差を意味し,スケール・ファクタ(変換比率),直線性,オフセットの各量で表します.

D-Aコンバータは比較的高速に動作し,セトリング・タイム(出力が0からフルスケールまで変化するのに要する時間),スルーレート(アンプの立ち上がり速度),スイッチング・タイム(アナログ・スイッチの遅れ)などの諸パラメータで時間特性を表します.
< copyright 1994 臼田昭司/井上祥史/伊藤 敏 > 

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重み付け抵抗法

OPアンプを使った加算器に流し込む電流を,ディジタルのビットの各桁の重み付け抵抗で制限する方法を重み付け抵抗法といいます.この方法を,例えば8ビットのD-Aコンバータに使うと,抵抗はRから128Rの広い範囲の値を必要とし,しかも温度特性などを一定に保たなければならないため製作は困難で実用的ではありません.このため8ビットなら上位4ビット,下位4ビットに分けて,8倍の抵抗値の範囲に納めることがよく行われます.

図の回路は,上位4ビットに下位4ビットより16倍(または10倍)の電流が流れるようにしたものです.この回路でr=8Rとすると8ビットのD-Aコンバータに,r=4.8Rとすると2桁のBCDコードのD-Aコンバータ(上位,下位の電流の比が10:1)になります.



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アナログ・スイッチ

FETを使ってアナログ・スイッチがつくれます.通常はNチャネルMOSFETを用いていますので,キャリアの電子の移動度が大きく,ON抵抗は比較的少なく高速(100ns程度)で動作します.アナログ・スイッチはD-Aコンバータの入力だけでなく帰還型A-Dコンバータの内部やA-Dコンバータの多チャネル入力切り替え用(マルチプレクサと呼ぶ)など多くのところで使われています.

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ディジタル信号

A-D,D-Aコンバータでよく使われるディジタル・コードを,3ビットの場合を例にとって簡易的に示します.

正の電圧のみディジタルで表現するには,普通の2進数(ストレート・バイナリ)でよいのですが,正負に変化する符号付きの値を現したいときは,表のようにいくつかの方法があります.

オフセット・バイナリ(OBN)はストレート・バイナリを0が中央に来るように全体を押し下げたもので,MSB(最上位桁)が1のときが正,0のときが負になります(MSBがサイン・ビットとなる).補数コードにはオフセット・バイナリのMSBを反転させた1の補数型(OSC;例えば3.5Vと−3.5Vのコードの和は111,欠点は+0と−0が存在する),1の補数コードの000を中央の0Vに移動させた2の補数型(TSC;例えば3Vと−3Vのコードの和は000)があり,いずれも0をはさんで全ビットが反転します.

さらに交番コードと呼ばれ,現在のビットが一つ上位の桁のビットと同じときは0を代入するグレイ・コードなどがあります.この他に4ビットで0から9までの10進数を現すBCDコードがあり,それぞれを補数にしたコードも存在します.



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A-Dコンバータ




Keywords:A-D,D-A,MSB,LSB,積分器,比較器,アナログ・スイッチ,二重積分型,電荷平衡型,電圧比較型,サンプル&ホールド回路

A-Dコンバータは,アナログ量をディジタル量に変換するもので,コンピュータに外部からアナログ量を取り込むときに必要となる変換器です.ディジタル化することによって波形を永久に保存したり,和(平均化や積分),差(微分など),積(相関など),そしてフーリエ変換(FFT)などを行ってスペクトルを求めるなどの演算をコンピュータで行うことができ,必要に応じていつでもD-Aコンバータで元のアナログ量に直すことができるため,民生機器をはじめいたるところで用いられています.

パソコンなどに接続するにはA-D変換ボードを拡張I/Oスロットに差し込むか,GPIBケーブルを介してA-D変換器をもつ測定器からのデータを転送します.

A-Dコンバータには様々な用途に応じて多くの変換方式があり,
積分型電圧比較型などに分類できます.

A-Dコンバータは連続な量をある大きさで区切ってとびとびな量に直すため,どうしても有限の時間と変換に伴う誤差が発生します.このうち変換時間は,スタート命令がかかってから変換が終了するまでの時間のことをいい,変換方式によってこのスピードは大きく異なります.

A-Dコンバータを変換しているあいだは入力値を一定に保つ必要がある方式が多いため,入力電圧を変換時間の間一定に保持するサンプル&ホールド回路,チャネルを切り替えて多重入力を可能にするアナログ・マルチプレクサ回路,そしてバッファ・アンプなど周辺に外部回路を付加する場合が多くあります.実際の使用に当たってはA-Dコンバータ単独での変換時間だけでなく,リセット・タイムやこれらの外部回路の時間特性を考慮に入れる必要があります.

また,当然ながらマイナス入力にも対応している(両極性)のか,どのようなディジタル・コードで出力しているのかなどにも注意を払う必要があります.
< copyright 1994 臼田昭司/井上祥史/伊藤 敏 > 

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積分型A-Dコンバータ

この方式には入力電圧を積分して,定格電圧に達するまでの時間をクロックでカウントするパルス幅変調方式と,積分器の後に比較器(コンパレータ)を設けて定格電圧になると0にリセットして周波数を変化させるV-F変換方式などがあります.これらの方式では,積分するときの傾斜が直線から外れたり,スタート位置がずれたり,クロック周波数の変動など様々な要因によって誤差を生じます.このため,これらの誤差をなるべく相殺させるようにした,入力電圧と基準電圧とを交互に切り替える
二重積分型電荷平衡型などの方式が実用化されています.

この積分方式は,変換時間は遅いけれども積分動作のためノイズが平均化される,クロックの変動などが相殺されるなどの特徴があり,安価ですが比較的精度のよい変換を行うことができます.

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二重積分型A-Dコンバータ

積分器の入力に,入力電圧Vinに続いて負の基準電圧−Vrを加えて0クロスするまでのカウンタの値からディジタル値を求める方式で,桁上がり方式のブロック図とタイムチャートは図のようになります.

はじめ,正の入力電圧Vinをカウンタがフルカウントするまでの一定時間(T)積分器に入力し,その後,桁上がりパルスQnで積分器への入力を負の基準電圧−Vrに切り替えると,いままでの負の方向の積分器出力は反転して0に向かいます.そして,0クロスした時間T1でカウントを打ち切ると,T1−TすなわちTでのカウンタの値はVinに比例しますから,これをディジタル値とすることができます.

この方式は電荷平衡型と比較して,積分を0位置からスタートさせる必要があることや,変換時間が入力電圧によって変化するなどの特徴があります.





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誤差

連続のアナログ量を離散的なディジタル量に変換するため,必然的に分割幅(最下位ビットLSBに相当する電圧)だけの不確定が生じ,誤差は切り捨てられてディジタル量に変換されます.この誤差を量子化誤差と呼び,ビット数が増えれば減少します.

このほかにA-Dコンバータが生ずる主な誤差には,微分非直線性(実際にディジタル変換されるときの電圧と理想的な場合とのずれの最大値で±1/2LSBなどと表す),オフセット誤差(入力が0のときのディジタル値で0誤差ともいい%で表す),利得誤差(全ビットが1のときの入力電圧の誤差率)などがあります.

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アナログ・マルチプレクサ

多チャネルからの入力をスイッチによって切り替える回路を指します.これによって高価なA-Dコンバータを有効に使うことができますが,同時には処理できないことになります.アナログ・スイッチ(半導体スイッチで多くはNチャネルMOSFET)を使用するため,機械式のリレー・スイッチよりON抵抗が高くなります.

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電荷平衡型A-Dコンバータ

基本的な回路は二重積分型と大差はなく,図のタイムチャートに示すように,入力電圧が大きくなるほど太い実線の部分のカウント時間が増えていることがわかります.はじめは入力電圧Vinだけを加えて積分し,定格電圧Vdに達すると負の基準電圧−Vrを追加してVin−Vrを0になるまで上向きに積分し,この時にカウントします.0になると再びVinのみを加えて下向きに積分し,以後同様な動作を一定時間Tになるまで繰り返します.

このようにすると,積分器の入力,出力がどの位置にあってもカウンタの和の値は入力電圧Vinに比例したディジタル量を示すことができます.普通VdはVinの最大値よりかなり小さくとりますから,振動の周期は短くなり積分の直線性は良くなります.コンデンサの中の電荷は速い周期で0に戻ってきますから,電荷平衡型と呼ばれています.

この方式の特徴は,変換時間がTで固定されていることと,変換精度がスタート・レベルによって変わらないという点です.



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サンプル&ホールド回路

この回路はアナログ信号が入ったとき,その瞬間値をA-D変換などが終了するまで保持しておく回路です.サンプル時は入力信号がそのままVoutに通り抜け,ホールド・モードになるとその最終値が保持されます.基本的な回路はコンデンサとアナログ・スイッチで構成されており,図のRを大きくすると応答が遅くなり積分動作をします.反対にRが小さいほど入力電圧への応答は速くなりますが,入力側からの電流が流れすぎるなどの問題が生じます.このため必要に応じてバッファを入れることになります.

サンプル中に入力電圧がフルスケールの幅で変化したとき,規定範囲内に落ち着くまでの時間をアクイジション・タイムと呼び,ホールド・モードになったとき,規定範囲内に落ち着くまでの時間をアパーチャ・タイムと呼びます.普通ゲイン1の正極性で,論理レベル1でサンプル,0でホールド・モードとして使います.



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電圧比較型A-Dコンバータ

電圧比較型のA-Dコンバータは,カウンタで出力したディジタル信号をD-A変換し,得られたアナログ電圧と入力電圧とを比較して必要な操作を行う帰還型と,ディジタル量をフィードバックせず直接出力する無帰還型に分かれます.

このうち,帰還型にはクロックを連続的にカウントしてそのD-A変換値が入力電圧を越えるとカウントを止める方式(計数型)と,これに追従機能をもたせるためにアップ/ダウン・カウンタを追加して入力を常に追いかける形の追従比較型,およびディジタル量の各ビットのセット/リセットを繰り返して入力電圧値をサーチする逐次比較型が挙げられます.

これに対し,無帰還型は入力電圧とディジタル出力とを比較する必要はありませんからD-Aコンバータは不要で,論理回路を使ってディジタル量を直接出力します.
並列比較型がこの方式で,ディジタル量をソフト的に算出するほかの方式に比較してハード的に結果を出力しますから,最も高速に変換することができます.これはちょうどワークステーションで使われているCPUが,命令をハード的に実行して高速化を計っているのと似ています.

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並列比較型A-Dコンバータ

同時比較型A-Dコンバータとも呼び,nビットであれば2n−1個の比較器を設けてその出力の状態からロジック回路でディジタル量を直接求めるもので,すべてのA-Dコンバータのうちで最速となります.

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液晶ディスプレイ




(LCD)Keywords:ディスプレイ,TFT液晶,STN液晶表示素子,カラー・ブック・パソコン,アクティブ・マトリクス駆動,マトリクス

ディスプレイの種類には,現在次のものが知られています.

CRT,プラズマ・ディスプレイ,
液晶ディスプレイ,エレクトロ・ルミネセンス,螢光表示板.このなかで,現在最も使われているディスプレイはCRT(Cathode Ray Tube)で,画面に塗られた螢光塗料に電子を当てて発光させます.良い点は画質が良い,画面の応答速度が速いなどがあります.悪い点は大きい,特に後ろが出っ張る,画面に静電気を集め,目にほこりを入れる,X線や紫外線を放射するなどがあります.

現在のデスクトップ型のコンピュータにはなくてはならない表示装置です.しかし,ノート型コンピュータでは液晶表示素子が採用され,最近ではTFT液晶を用いたカラー・ノート・パソコンをみかけるようになってきました.今後,液晶表示素子はデスクトップ機も含め,表示装置の中心的存在になっていくでしょう.
< copyright 1994 臼田昭司/井上祥史/伊藤 敏 > 

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液晶表示の原理

図のように2枚の偏光板を光が通らないように置きます(クロス・ニコル).透明電極の間に液晶をねじって入れ,光の振動面を回転させると,光が透過します.この状態で電圧をONにすると,液晶のねじれが電圧により取れ,光が透過しなくなります.電圧をOFFにすると液晶のねじれが戻り,再び光が透過するようになります.

すなわち,電圧のON/OFFにより,暗/明と切り替わる光バルブとして用いられます.また,はじめの偏光板の向きを光が通るように変えると,電圧ON/OFFにより明/暗と切り替わる光バルブとなります.この液晶と電極の組を
マトリクス状に配置すれば,各マトリクス要素の電極のON/OFFにより,ドット単位でON/OFF表示が可能になります.



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液晶ディスプレイ(LCD)

液晶を光バルブとして,電圧のON/OFFにより光の透過(ON)と不透過(OFF)を制御しているのが液晶表示の原理です.CRTと比べると,

▼良い点:消費電力が少ない,軽量化が可能
▼悪い点:表示応答速度がやや遅い,画面がまだ小さい

という特徴をもっています.TFT液晶素子の出現により,表示応答速度も十分速くなり,画面
の大きなものが作れるようになってきました.液晶をカラー表示するためにはカラー・フィルタが必要です.ノート・パソコンでもカラー液晶のものが主流になるでしょう.

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マトリクス

原理的にはxとyの電極に電圧をかけると,xとyのクロスしたところが光OFFになり,黒く表示されます.電極xとyの制御法に
直接マトリクス法アクティブ・マトリクス法があります.

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直接マトリクス駆動法

一つの電極に複数の画素がつながるので,印加する電圧はパルス状にします.そのため,それぞれの画素はある周期で間欠的に電圧励起を受けます.y電極群を順欠走査し,同期してx電極に信号を加えます.

1/2バイアス法の例と,直接マトリクス駆動法のもっとも単純な方法を図示します.





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カラー表示の原理

現在,市場にはTFT方式とSTN方式のカラー液晶素子が出まわっています.両方を見比べると,TFT方式のほうが明らかにクリアで応答速度も速いのですが,値段はTFT液晶のほうが高くなっています.TFT法はアクティブ・マトリクス方式を取っており,
STN方式は直接マトリクス法を採用しています.

TFT法のカラー表示原理は図で示すように赤・緑・青のカラー・フィルタを順番に並べ,この3色で1ドットを表します.すなわち,640×480ドットのカラー画面は画面上に約93万個のトランジスタが並んでいることになります.

さらに,RGBのドットを制御する素子が,それぞれが,光のON/OFFだけでなく,光が少しだけ通るようにするようにして,階調を表現できるようにし,多くの色を表現できるようになっています.



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STN方式液晶素子

TN法の液晶のねじれを,90度からさらに+180度ねじった270度のねじれをもたせた表示素子です.90度のねじれによりコントラストが強くなります.

最近はこのSTNをダブルスキャンとして応答速度の改善をはかったDSTNが多くなっています。




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アクティブ・マトリクス方式

各画素に光ON/OFF機能(スイッチ要素)とON/OFF状態の保持機能(信号蓄積要素)を付けたもので,次のような特徴があります.

▼走査電極数に制限がない →画素数を増やせる
▼クロストークがない(にじまない)
▼コントラストが高く,応答速度も速い
▼駆動回路が表示部と一体化できる.→小型化・高信頼性

具体的には各画素一つ一つごとにTFT(薄膜トランジスタThin Film Transistor)を用いて,光のON/OFFの制御を行う方式が実用化されています.各画素を制御する素子に要求される特性は,アドレス時間の間に液晶セルに電荷を充電できることと,リフレッシュ時間内に液晶セルにたまった電荷が放電しないことです.

各画素ごとにスイッチとして働く薄膜トランジスタ(TFT)一つがついているので,640×480ドットの白黒画面でも約31万個のトランジスタが並んでいます.今までは欠陥のない製品の歩留りが悪く,値段も高価ですが,技術改革によって,より大きな画面で値段の安い製品が出はじめています.

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■ 参考文献 ■ (1)岡野光治,小林駿介編;液晶 応用編,培風館,1986年.

▼1/2バイアス 法 単純なマトリクス駆動法