第1章 パワーMOSFETとパワー・トランジスタの違い(8)

パワー・デバイスが安全動作領域を越える例

 

コラムA パワー・デバイスが安全動作領域を越える例

ランプ負荷での点灯瞬時

 図A-1に示すDC12V/2Wの電球を負荷とした点灯回路を考えてみます.

(図A-1)

パワー・トランジスタ2SC2883の安全動作領域と動作ライン

(約21Kバイト)

 

 まず,電球の定格(2W)から負荷インピーダンスを求めると,

  RL ==72[Ω]

ですが,点灯直後の負荷インピーダンスは,一般に定常時の約1/10程度の値(7.2Ω)となるため,大きなインラッシュ電流が流れます.もしこのランプを十分余裕のあるドライバで駆動すると,点灯瞬時に,

  ILP ==1.7[A]

の電流が流れます.

 しかし,素子自身の駆動能力が不足していたり,その素子を駆動するドライバの駆動能力が不十分なとき,素子のコレクタ−エミッタ間(ドレイン−ソース間)に電圧が残り,コレクタ(ドレイン)電流が流れる半クラッチ状態に陥って,大きな損失が発生します

 このランプ点灯瞬時のインラッシュ電流は,数十ms程度のパルス電流のため,パワーMOSFETの場合問題になるケースは多くはありません.しかし,パワー・トランジスタの場合は素子の選択を誤ると破壊を招くことになります.

DCモータ負荷を駆動するとき

 図A-2に示すように,DC12V/100Wのモータをアナログ制御するドライブ回路構成を考えます.

(図A-2)

パワー・トランジスタ2SC3345の安全動作領域と動作ライン

 

 

 

 モータの負荷が重いとき,モータ電流IML は,

  IML =≒8.3[A]

です.しかし,素子に十分な駆動能力がない場合やモータの負荷が軽くなると,モータ電流IML が減少して,コレクタ−エミッタ間(ドレイン−ソース間)電圧が上昇します.すると前述の半クラッチ状態に入ります.この状態はランプ負荷の点灯瞬時のときとは違って連続的に続く可能性があります.半クラッチ状態が続くと電力損失の大きい状態が続くため接合部温度が上がり安全動作領域SOAが狭まります

 したがって,DCモータ駆動用の素子を選ぶときは注意が必要です.

 なお,飽和領域で動作中のパワー・トランジスタとパワーMOSFETの損失PC およびPD は,

  PC VCE(sat)×IC

  PD ID2×RDS(ON)

から求まります.


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