1.1 システム・レベルでの設計課題(その2)

1.1.2 IP組み合わせ

 

(図1.2)IP組み合わせ

(約3Kバイト)

 

 各種の知的財産(IP)あるいは仮想コンポーネント(VC)を用いてSOCを実装する方式は,プラットフォーム方式にくらべれば,コンポーネントやアーキテクチャ選択がさらに柔軟になることがよい.しかしこの方式を実現するには,各種のコンポーネントが選択できて,目的の応用領域にうまく適応でき,さまざまな組み合わせも可能な,かなり充実したIPデータベースが必要となる.柔軟性はソフトウェアばかりでなくアーキテクチャからも得られるからである.しかしこの方式を採るとIP組み合わせに高度な技術が必要となり,特に,それぞれ相異なると予想されるプロトコルをもった各種IPを接続するには,特別な技術が必要となる.

 このIP方式はコンポーネントを選択し,また適切なアーキテクチャを形成するために付随した作業が発生するという点でプラットフォーム方式と同じである.まず目標製品の仕様を作り,それを分割し,分割されたコンポーネントをIPデータベースから選択された各種コンポーネントに対応させる.この分割作業はコンポーネント選択とアーキテクチャ候補に対する評価を並行して行える.並行にアーキテクチャを探索するため,SOCをIP方式で作る方式はより難しいものとなるが,結果的には目標製品の仕様に対して,より良く調和が取れる方式となる.

 IP組み合わせ方式の場合,おもな課題はプラットフォーム方式のそれと同様で仕様記述言語の作成,アーキテクチャ・モデルの作成,検証技術の確立である.しかしIP組み合わせ方式ではこの他にもIPデータベースの作成,アーキテクチャ探索,それにIP集積化技術が課題となる.

 プラットフォーム方式で必要だったツールに加えて,IP組み合わせ方式で新たに必要となるツールは,IP選択ツールと評価ツール,アーキテクチャ探索ツール,プロトコルとインターフェースの合成ツールである.ここで注意すべきことは,IP組み合わせに要するツールの複雑度は,プラットフォーム方式のそれにくらべてはるかに大きいということである.例えば検証ツールは外部から移入されたIPにも対応しなければならないが,プラットフォーム・アーキテクチャの場合はコンポーネントのモデルはすべて既知であった.同様に分割ツール,選択ツール,探索と合成ツールはそれぞれはるかに大きくかつ多量のコンポーネントに対処できねばならない.またIPを外部から調達する場合,標準的なIPの取り引きモデルが確立されていなければならない.

1.1.3 仕様からの合成

 

(図1.3)合成

(約3Kバイト)

 

 SOCを仕様から直接合成する方式はもっとも柔軟性に富んでいる.しかしながらもっとも難しい方式でもある.仕様が求める機能を与えられた制約条件を満足するソフトウェアとハードウェアに分けて合成できる必要がある.

 この方式ではソフトウェアもアーキテクチャも各コンポーネントもすべてカスタム品だからもっとも柔軟性がある.しかしながらこの方式を実現するには,どのようなコンポーネントやIPでも合成できる技術やツールを提供できるCAD技術を開発しなければならない.

 合成方式はIP探索戦略を除けばIP組み合せ方式と類似している.さらに分割はソフトウェアのプロファイル化と設計予測を基に行い,コンポーネントの選択は行わない.この方式ではコンポーネントは後で合成される.合成方式は次のステップからなっている.まず最終製品の仕様を作り,要件が定まったいくつかのグループに分ける.次に各グループをカスタム・プロセッサあるいはカスタム・ハードウェアに合成する.さらにアーキテクチャ・モデルを作り,それが仕様を満足するかどうか検証を行う.最後にそのコードをコンパイルし,カスタムのRTOSを作る.

 合成可能なSOC実現のための課題は,機能的かつ予見できる分割手法と,仕様からソフトウェアとハードウェアを合成できる手法を開発することである.合成可能SOCに必要なおもなツールは,分割で用いるソフトウェアとハードウェアのプロファイラおよび予測ツールおよび仕様記述言語からの合成ツールである.また各種のSOCモデルを明確に定義し,アーキテクチャの探索,検証,そして他のどの方式よりも難しい合成に取り組まねばならない.他の方式と同様,リターゲッタブル・コンパイラとRTOS生成ツールも必要となる.

1.1.4システム・レベル設計言語

 以上にSOC設計に適用できる3通りの方式を説明した.これらすべては下記を必要としている.

(a) 実行可能仕様,確定したアーキテクチャとその実装モデル,さらに仕様から実装を行うための方法論.

(b) コンポーネントの選択,分割,探索,検証に必要な技術とツール.

(c) ソフトウェア,ハードウェア,インターフェースの合成に必要な技術とツール.

 本書では(a)以下に示した問題点の解を求めてみる.SpecCと呼んでいるC言語の拡張言語を説明し,そこではソフトウェアのための並行な逐次的プロセッサ(CSP),ハードウェアのためのデータパスをもった有限ステートマシン(FSMD),プロトコルのための離散的イベント(DE)といった三つの演算モデルを説明する.また実行可能仕様,アーキテクチャ,通信およびサイクル精度のレジスタ・トランスファ,さらに実行可能な仕様をサイクル精度の実装に変換する方法論のための正当なSOCモデルを示す.

 本書ではSpecCの構文と意味論を説明し,SpecCによる方法の事例研究を業界でも先端的な例で示す.


Copyright 2000 
著者 Daniel D.Gajski  Jianwen Zhu  Rainer Doemer
Andreas Gerstlauer  Shuqing Zhao
訳者 木下 常雄  冨山 宏之

 

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