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表紙

お話・カラー画像処理
デジタル写真はあなたをだます


はじめに

 写真は文字どおり「真実を写す」ものでしょうか。ほとんどの人はこう答えるかもしれません。
「そりゃそうだ。だから写真というんだろ」 
でもちょっと詳しい人は、
「ネガさえあれば間違えないよ」
 と付け加えることでしょう。
 いままでの写真は、パトローネに入ったフィルムをカメラに詰め込んで撮影します。それを写真店で現像すれば、ネガとともにプリントが返ってきます。フィルムに写った光は潜像から、化学処理を経て現像され、ネガ像になります。ネガフィルムはレンズを通して印画紙に焼き込まれて、再び、現像されて、カラープリントとなって私たちを楽しませてくれます。どうやらどこにもウソの入り込む余地はなさそうです。
 でもこんな経験はありませんか。
 スタジオ写真館でちょっとおすましして、写真を撮ってもらったときのことを思い出してみてください。ふだん、家族や友人がコンパクトカメラで撮ってくれた自分よりもずいぶんきれいに写っていませんか。もちろん写真館の人もプロですから、あなたの顔のもっともよく見える角度や照明など、ありとあらゆる注意を払って撮ってくれるのですから当然です。
 でも、それだけではありません。写真館ではたいてい最後に「修正」をします。これで、肌にあるシミやニキビを目立たなくしてくれるのです。すると肌はなめらかになり、そう、化粧のファンデーションを塗ったかのようになります。
 むかし、こんなことがありました。履歴書に少しでもよい写真を貼りたくて、写真館で証明写真を撮ってもらったのです。数日たってできあがってきた写真は、期待通り、現実に反して(?)ハンサムに見えます。いつもこんな顔に見えたらなあ、と写真をよく見てみると、私のトレードマークの額のホクロがきれいになくなっているではありませんか。「あれっ」と思ってルーペを持ち出し、拡大してみるとホクロの上に小さな白い点がたくさん打ってあります。そうです、写真館の人がシミかゴミだと思ったのか、修正して目立たないようにしてしまったのです。「やられたっ!」と思いながらも、私の自慢のホクロを点描画のようにしてしまった写真館の主人の腕に妙に感心した覚えがあります。
 こんな例はかわいいものですが、なかには、「写真は真実を語る」という常識の裏をかいて、意図的にウソの写真を作る例もあります。
 今は亡きダイアナ妃が男友達と向き合っていて、いかにも仲むつまじい雰囲気の有名な写真があります。この写真を見れば、だれもがダイアナ妃とボーイフレンドのバカンスの特ダネ写真だと思ったに違いありません。でもこの写真、じつは反対側を向いていたふたりを修正して、あたかも向き合っているかのようしてしまった偽造「写真」だったのです。
 この写真を撮ったカメラマン(パパラッチというそうですが)は、最初は反対向きの写真を撮ってしまって、きっと「しくじった」と思ったかもしれません。でも、ふたりの表情がいかにもそれらしくて、顔の向きを変えることを思いついた途端、「しめた」とほくそ笑んだに違いありません。「これで高く売れるぞ」と。
 このような偽造写真は決して歓迎できるものではありませんが、私たちの身の回りにもさまざまな偽造「写真」があります。
 たとえば、不動産物件の広告で、マンションや一戸建ての完成写真がそうです。ゴミゴミした現場を少しでもよく見せるために、電線を消したり周囲の建物を目立たなくすることがよくあります。宣伝写真で見たときの印象と現場の印象が違っていたという経験をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
 週刊誌やポスターの女性の印刷物もそうです。私のホクロではありませんが、シミ、ソバカスはきれいに取り除き、白目や歯の白は限りなく白く、そして、肌色はいかにも健康そうな淡いピンクや小麦色です。女性の顔をアップにしたような印刷物の画像のほとんどがこのような修正をおこなっているといっても過言ではありません。
 では、このような修正はどのようにおこなっているのでしょうか。必ずしも名人芸の人たちがひとつひとつ丁寧に修正ペンで直しているのではありません。多くは誰にでもできる現代の修正ペンが使われています。この「魔法の」修正ペンがデジタル画像処理なのです。
 画像をコンピュータ上で修正すれば、何回でもやり直しがきき、必要なところは拡大して画素ひとつひとつを修正することができます。必ずしも手先が器用である必要はありません。場合によっては、画像処理プログラムを利用して、ボタンひとつで瞬時に直すことすらできます。
 この本では、そんなデジタルカラー画像処理をわかりやすく解説していきます。もちろん、もともとは「偽造」するためのものではなく、フィルムを使った写真よりも、より「真実」に近い写真を作るためのものです。
 まずはデジタル画像の基礎とデジタル画像機器についてお話します。デジタル画像はどのようにできているのでしょうか。また身近なところに使われているデジタル画像機器にはどのようなものがあるのでしょうか。
 そしてこの知識をベースに画像処理についてお話します。画像処理といってもいろいろな種類があるので、この本では、おもに「デジタル写真」のための画像処理を取り上げます。
 前半では、画像をいじり思いのままに変えてしまう代表的な画像処理を紹介していきます。これを使えば、画像のコンテンツを変え、被写体そのものを架空のものにすることができ、その気になれば、誰かをだますこともできます。
 後半では少し真面目に、画像を真実に近づけるための画像処理についてお話します。画像を真実に近づけるためには、あなたの眼を巧みにだましていきます。あなたの眼をだまして真実に近づけるとはどういうことでしょうか。
 それでは、カラー画像処理の世界へご案内いたしましょう。


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