組み込みJavaの現状と動向

 Javaは,1995年のサン・ワールド・エキスポで初めて登場しました.当初は,Javaで開発されたブラウザのHotJavaに注目が集まりました.当時のブラウザは,今のブラウザと異なり,静止画しか表現できなかったのですが,HotJavaはアプレット機能により,アニメーションを表現することができたからです.

 サン・ワールド・エキスポで,Java,HotJavaが発表されたとき,HotJavaの画面には,手を振るデュークの姿がありました.その光景があまりもセンセーショナルであったため,Javaは,インターネット上のマルチメディア環境のような印象を世の中に与えました(図1).

〔図1〕デュークが踊るHotJava

 

 当初,サン・マイクロシステムズ社の経営陣は,Javaの可能性を過小評価していたようですが,サン・ワールド・エキスポでJavaが発表されると,世界中のエンジニアがそのコンセプトに飛びつきました.その結果,あっという間にJavaのもつ多様な可能性が見えてきたのです.世間のJavaに対する盛り上がりを察知したサン・マイクロシステムズ社は,このJavaをWintel陣営(マイクロソフト社とインテル社の連合)に対抗する戦略技術として位置付けました.

 その後のサン・マイクロシステムズ社の行動はすばやく,その年に開かれたデベロッパ向けの最初のカンファレンス「JavaOne」で,Javaを組み込み環境からデスクトップ環境,エンタープライズシステムまでをカバーする新しいコンピューティング環境とする,壮大なJava構想が発表されました.さらにその後,Javaを直接実行できるCPU,JavaChipの開発計画までぶち上げ,Wintel陣営に対抗する体制の構築を急ピッチで開始しました(図2).

〔図2〕Javaの適用分野

 


● デスクトップ向けJavaの挫折
 当初,オラクル社,コーレル社などの反Wintel陣営のソフトウェア会社は,こぞってデスクトップ向けJava環境を実現するための開発を始めました.そのコンセプトを具現化したのがネットワーク・コンピュータ(NC)構想です.

 このNC構想は,反Wintel陣営のリーダーといえるオラクル社のラリー・エリソン会長によって提唱されました.NCにはJavaが搭載され,アプリケーションは,ユーザーが使用するときにネットワークからダウンロードして使用する方式を採りました.

 したがって,NCにはハードディスクなどのストレージをまったく搭載せず,「空っぽなPC」とも呼ばれ,500ドル程度で販売される予定になっていました.NC構想が発表された当時,パソコンは2,000ドル程度で販売されていたので,NCの500ドルという破格の値付けは世の中に衝撃を与えました.

 しかし,NCが目指すJavaによるデスクトップ環境を実現するためには,さまざまな機能がJavaには欠けていました.

 もっとも問題だったのは,「遅い」ということです.Javaは,ご存知のとおりJavaVMが,バイトコードをインタープリンティブに実行します.このため,どうしても実行速度が遅くなります.さらに,GC(ガーベジコレクション),エクセプションなど,実行速度にとってマイナスとなる要因がたくさんあり,JavaVMの性能の改善は非常に困難をきわめました.

 もう一つ,デスクトップ環境にとって重要な機能がWYSIWYGです.

 WYSIWYGとは,画面表示イメージと印刷イメージを一致させる技術です(図3).これによりユーザーは,印刷イメージ上で編集作業などが行えるようになります.この機構がシステム側でサポートされていれば,アプリケーション側で,プリンタメーカーや機種の違いを意識する必要がなくなり,ユーザーフレンドリなWYSIWYG型アプリケーションの開発を容易に行えるようになります.

〔図3〕WYSIWYG

 

 

 しかし,Javaにはこの機能がサポートされていません.ちょうど,MS-DOS上のアプリケーションを開発するようなものです.ユーザーの印刷環境をアプリケーション側が把握する必要があり,ユーザーフレンドリなWYSIWYG型アプリケーションの開発をJavaで行うことは,たいへん難しいものになります.

 そしてさらに,Java技術を中核においたNCにとって悪い事態が起こりました.NC構想が発表されたことに警戒したパソコンメーカーがパソコンの低価格攻勢を始めたため,パソコンの価格が急激に下がりはじめたのです.NCが実際に発売された頃には,1,000ドルパソコン全盛となり,逆にNCは500ドルという価格を実現できず,発売されたときにはパソコンより高い価格になってしまいました.

 その後,NCは,TCO(Total Cost Ownership)を削減するソリューションとして,そのコンセプトが修正されましたが,結局Javaによるデスクトップ環境を実現する構想は頓挫しました.

● エンタープライズシステムで開花したJava
 一方,サーバサイド側のバックエンドシステムにおいてJavaの利用はかなり進んできました.

 昨年末,サン・マイクロシステムズ社は,エンタープライズシステム向けのJavaソリューションJava Business ConferenceでJ2EE(Java 2 Enterprise Edition)を発表しました.J2EEは,Java Servlet,JSP(Java Server Pages),EJB(Enterprise JavaBeans),JDBCなどのAPIから構成されています.

 さらに,XML対応として,今年の2月には JAXP(Java API for XML Parsing Optional Package)も発表され,バックエンドシステムのソリューションとして,その地位を不動のものにしています.

 このような切れ目のない機能強化や,EJB(Enterprise Java Beans)機能を提供するアプリケーションサーバなどが,次々とサードベンダーからリリースされ,インターネットバンキングなどの,最近のエレクトロニックコマース(EC)システムは,ほとんどがJavaベースで開発されています(図4).

〔図4〕ECシステムの一般的な構造

 

 

◆ 組み込みJavaの現状と動向
◆ 組み込みシステムでのJavaの利用
◆ 多様化する組み込みJava実行環境
◆    コラム

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Copyright 2000 眞壁 幸一