「エレクトロニクス」は電気を扱う技術分野の総称なのだが,現在のエレクトロニクスという言葉はとても広い技術分野をカバーする.たとえば,世界的なエレクトロニクス系学会であるIEEE(Institute of Electric and Electronics Engineers)は,その分科会にコンピュータのハード,ソフト,システム,信号処理,回路,電子デバイス,電磁気学などをすべて含んでいる(図1) .
とてもではないが,一人のエンジニアがこれらの分野をすべてカバーすることはできないだろう.もちろん,エレクトロニクス以外の多くの分野で共通する事項もたくさんある.現在では,電子回路系の基礎と情報系の基礎は,エレクトロニクス系エンジニアの共通の知識となっている. 過去30年間は,エレクトロニクスに関する発明の爆発期であった.すなわち,それ以前には存在しなかった技術分野がこの期間に多数出現している.マイクロプロセッサもインターネットも筆者が学生だった頃には存在しなかったし,まさかデスクトップのPCが1GFLOPSを超える計算処理能力をもつなどとは,とても考えられなかった.したがって,現在の大学生が講義から取り入れなければならないキーワードの数は,筆者が学生だった頃の数倍にはなるのではないだろうか. しかし,学習時間は増えていない.いや,遊べる環境が充実してきた分だけ,勉学の時間は確実に減っている.このような状況に対応しようとするためには,同じ時間で習得できる技術要素の量が変わらないはずなので,取り入れる分野を狭くしてその分野で一人前になるしかないだろう.現実に,そういうことがエレクトロニクスの分野で起こっているように感じられる.そして,それを支えるのが技術のコンポーネント化であり,中身を知らなくても機能は使えるという部品提供の技術であるともいえる. ソフトウェアから始まったコンポーネント化は,ハードウェアにも広がってきている.コンポーネント化は,本来はソフトウェアをハードウェアと同じように部品化しようという試みであったが,その考え方はハードウェア製品にも影響を及ぼすようになった.個々のエンジニアは,狭い専門分野とコンポーネント利用技術により最終製品を開発するというスタイルが,現在のエンジニアの開発手法となっているようである. ![]()
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