第1章 組み込みシステムの特徴の理解と,問題解決の道筋探索
組み込みシステムの特徴を考える

 「組み込みシステム」と一口にいっても,多種多様な種類があり,続々と新たなシステムも誕生している.また組み込みシステムは,人によってその定義や認識が変わりがちである.そこで本章では,「組み込みシステムとは何か?」を,身のまわりの組み込み機器の列挙からはじめ,その特徴を四つに分けて,さまざまな考察を加え,何が大事かを抽出する.

(編集部)

はじめに

 私たちの生活の中に,組み込み機器・組み込みソフトウェアはいったいどれくらい入り込んでいるのでしょうか? 感覚的には,身のまわりにたくさんあるほとんどの電子機器にはCPUなどのプロセッサが搭載されていて,プロセッサ周辺のデバイスやメカニズムはソフトウェアで制御されている感じがします.そこで,組み込み機器とは何かを具体的に認識するために,家庭の中にある,CPUが搭載されている組み込み機器をカウントしてみました(表1).

〔表1〕家庭内のCPU搭載組み込み機器

 表1にあげたものは家庭の中で使われている組み込み機器ですが,実際には家の外でも自動車やバイク,電車,信号や踏切など交通関連の機器や,自動販売機,キャッシュディスペンサーなどの無人端末,自動ドア,工場内の設備など,CPUを内蔵しソフトウェアで制御されているさまざまな組み込み機器・組み込み設備が世の中に存在しています.たとえば図1のようなイメージです.

〔図1〕さまざまな組み込み向けCPUの例:「ルネサスマイコンのソリューション別マップ」〔(株)ルネサステクノロジ『RENESAS EDGE』創刊号より〕
 

 図1の中で取り上げられている自動車は,はるか昔は機構メカニズム中心のシステムでした.しかし,いまでは何十個ものCPUが搭載されている組み込みシステムの集合体です.車の基本機能をつかさどるエンジンまわりの部分だけでも,10個以上のCPUが,それぞれの仕事をまかされています.たとえば,

・モータ:16ビットCPU×5
・ブレーキ:32ビットCPU×4
・バッテリ:16ビットCPU×4
・エンジン:32ビットCPU×1+16ビットCPU×1

という具合です.ドアミラーのコントロールでさえ,左右1個ずつCPUが使われ,これらの何十個ものCPUが車用のLANでつながれているのです.

1 組み込み機器と 組み込みソフトウェアの定義

 具体的な組み込み機器を列挙したところで,あらためて,組み込み機器と組み込みソフトウェアとは何か?を考えてみます.

 CPUが搭載されているにもかかわらず,家庭の中にあって組み込み機器と呼ばれないのはパソコンです.パソコンは目的が一つではなく汎用的であり,アプリケーションソフトを入れ替えることなどでさまざまな利用方法を選択できるからです.それとは対照的に,前述の家庭内の組み込み機器には明確な使用目的があります.この二つのCPU内蔵機器の利用形態から,組み込み機器の特徴を考えると,CPUとソフトウェアが搭載され用途が決まっている機器が組み込み機器であり,CPUは搭載されているけれども,ソフトウェアは入れ替えが可能で目的が一つではない機器は組み込みではないということになります.

 しかし,たとえば最近の携帯電話では,iモードでインターネットにアクセスしたり,iアプリでゲームをダウンロードして遊んだりできます.携帯電話はCPUとソフトウェアが搭載され,電話をかけたりメールを交換したりするという目的がある組み込み機器の代表格のようなものですが,Web閲覧やいろいろなゲームを行うこともできます.どうも,組み込みか組み込みでないかは,単純にソフトウェアが入れ替えられるかどうかだけでは判断できそうにもありません.

 そこで,さまざまな用途で使われる組み込み機器の特徴を分析し,組み込み機器の本質を捉えるため,組み込みシステム・組み込みソフトウェアを四つの視点で分類し,ながめてみることにします.

以降の内容は本誌を参照ください

インデックス
プロローグ 魅力ある製品を生み出すためのソフトウェア開発とは?
◆第1章 組み込みシステムの特徴を考える

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