1.2 関連活動(その2)

1.2.2 商用システム

 数多くの商用ツールがEDA会社から生み出されている.しかしこれらは協調シミュレーションのように,協調設計処理中のポイント・ツールとして特定問題を解くことや,通信のような特定用途に焦点を絞っている.

 仕様レベルのモデリングと解析にはCadenceとSynopsysは(SPWとCOSSAPと呼ぶ)ツールを出し,これによって論理図が容易に入力でき,シミュレーションも行え,通信技術の世界で普及し規範となっている. この他に分類されるシミュレーション・ツールは,実装の検証確認を目標としている.代表的な製品はMentor GraphicsのSeamless CVEで,ハードウェア/ソフトウェア間相互連絡に無関係な情報をシミュレーションしないようにし,ハードウェアとソフトウェアの協調シミュレーション速度を上げている.例えば命令取り込みやメモリ・アクセス等が省かれる対象となる.ViewlogicのEagleiも同様のものである.

 ソフトウェアのコンパイルとハードウェアの合成のためのバックエンド・ツールも各種商品化されている.もっとも広く活用されているソフトウェアのコンパイル・ツールはGNU Cコンパイラである.しかしこれは汎用プロセッサ向けのコンパイラとして作られたため,VLIWデータパスや複数のメモリ・バンクを備えた組み込み用プロセッサに最適化コンパイラとして適用するにはたいへん困難である.またこの分野はアセンブラ・プログラムが実際的に支配的なので,新たなツールの出現が研究課題として望まれている.SynopsysのBehavioral Compiler,Mentor GraphicsのMonet,Y-ExplorationsのXEはハードウェア記述言語から出発した高位合成ツールの例である.他の例として,SynopsysのProtocol Compilerは通信プロトコルの仕様向け標準記述規範となっており,ハードウェア・モジュール間のインターフェース回路合成に用いられる.

 システム・レベルでの合成を行える市販ツールは限られている.少数の中でもCoWareシステムはハードウェア‐ソフトウェア・インターフェース問題を対象としている.ICLのVHDL+は,VHDLの拡張版で同様の問題に対処している.最近急速に組み込みシステム用再利用可能コンポーネントや,IP製品のベンダーが増えてきた.在来の再利用ソフトウェア・コンポーネントの例として組み込みオペレーティング・システムがあり,これらは安価に購入でき,リアルタイム対応も行える.しかし例を挙げてもWind RiverのVxWorks,MicrosoftのWindows CE,Sun MicrostystemsのJava OSと数は少ない.LucentのThe Infernoオペレーティング・システムは特にネットワーク応用のために作られた.ハードウェアIPベンダーはSynopsysのDesignwareのように機能ユニット・レベルから,ARMのプロセッサ・コアのようなマクロブロック・レベルにまでわたっている.

 これらに対してはVHDLやVerilogでシミュレーション・モデルや合成可能モデルが提供されている.これらIP群をシステム・オン・ア・チップに集積させることは見かけほどやさしくはなく,新たな方式論を考えて事態の打開を図らねばならない.

1.2.3 公開団体(コンソーシアム)<その1>

 SOC設計の複雑さはIP利用を喚起した.しかしIPの開発,流通,採用に係わるすべての関係者は技術的,事業的,法律的センスで,ある「プロトコル」に沿って相互交流をする必要がある.

 このプロトコルは,例えば自動車業界で機械部品の標準化が重要だったように,出現してきたIP市場を成功に導くために必要となるものである.不幸なことに,各社のSOC設計者,あるいは同じ会社にあっても別の部門にいる設計者たちは現在異なるファイル形式,異なる設計フロー,異なるEDAツールを使用し各々が孤立している.したがってIPコンポーネントの再利用は,自動車で機械部品を取り替えたり,プリント基板でパッケージ・コンポーネントを交換したりするほど容易にはいかず,このプロトコル無しにはIPは供給者から需要者に素直に受け取ってもらえる状況にない.

 このために多数の非営利団体,とりわけ大手半導体会社,EDA会社,IP会社が支援して,IP事業上の食い違いを解消するべく標準化を促進した. 

 Virtual Socket Interface Alliance(VSIA) は1996年9月に発足し,仮想コンポーネントの混在と適用を許すこと,異なる供給者からのIPを許すこと,それによってSOCを短期間で開発可能とすること,等のインフラを作る目的で設立された.

 VSIAは,IP供給者がVSIの規則を守れば,顧客の多様な個別設計フローを支援する必要性を省き,供給するIP商品を標準のままで済ませられるようにするため,機能レベルと物理レベルの双方で標準「公開」インターフェースを設定した.インターフェースの標準を定めるVSIAの手法はたいへん進歩的で,既存のデファクト・スタンダードのもの,公開されたもの,特許権がある標準規格でそれが使用可能になったもの,等すべてを認める方針を採り,あるいは他のグループからのものが標準になればこれも認めている.このやり方は直接的に明白なインパクトを業界にもたらすことになり,その使命は昔のCAD Framework Initiative(CFI)のそれと類似している.この方式によって簡単に標準的な供給体勢が整えられ,劇的にIP再利用が促進されるが,ファイル形式についてはさらに研究課題として残っている.


Copyright 2000 
著者 Daniel D.Gajski  Jianwen Zhu  Rainer Doemer
Andreas Gerstlauer  Shuqing Zhao
訳者 木下 常雄  冨山 宏之

 

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