人間の感覚器官とセンサ

 さて,センサはよく人間の五感(視覚,聴覚,嗅覚,味覚,触覚)にたとえられます.そして,実際のセンサ製品も,五感だけでなく,その他のさまざまな感覚を含めて人間の感覚器官によく似た働きをしています.

 たとえば,上で述べたCCDイメージセンサは網膜(視覚),3次元ジャイロは三半規管(平衡感覚),加速度センサは内耳前庭(運動感覚)に相当します.

 その他にも,聴覚に相当するマイクロホン,触覚のうち温覚に相当する温度センサや圧覚に相当する圧力センサは古くから使われてきました.また,嗅覚に相当するガスセンサ,においセンサや各種の味覚センサも数多く使われています.さらに,人間の感覚では直接検知できない赤外線や紫外線,超音波や超低周波,電界や磁界,電磁波や放射線なども,センサを使えば検知できます.

 これらの感覚器官の働きによって,人間は常に外界のさまざまな情報を取り入れています.感覚器官が外界から受け取った情報はすべて脳で処理することによって有用な情報として活用されます.

 たとえば,人間は何か熱いものや冷たいものに触れたとき,それから離れようとします.温覚が受け取った温度の刺激や圧覚が受け取った接触の刺激を脳が処理して,反射的に筋肉を動かすようにプログラムされているからです.しかし,このような単純な刺激と反射のメカニズムは,脳と呼べるほどのものをもたない原始的な生物にも備わっています(図3).

〔図3〕動物の感覚器とセンサ






 電子機器の場合でも,温度を監視して,温度が上がったらヒータのスイッチを切るとか,温度を一定に保つようにヒータの熱量を自動制御するというような単純なシステムは,プロセッサの介在なしにアナログ回路や簡単なロジック回路で実現することができます.

 しかし,人間はたとえば何か対象物に触れたとき,触感(肌触り,固さ,動き,温度など)からさまざまな情報を取り入れ,対象物の状態を総合的に判断することができます.そのような総合的な判断には脳の働きが必要です.

 さらに,視覚や聴覚のように複雑な情報になると,個々の単純な刺激を処理して画像や音声として認識する脳の働きが不可欠になります.たとえば,網膜が受け取った光の刺激は,脳において具体的な画像として認識されます.内耳(蝸牛管)が受け取った空気の振動は,やはり脳において具体的な音声として認識されます.

 センサが高性能化してきたというのも,単に素材や製造プロセスの改良で単体のセンサデバイスが高性能化したというだけではありません.それ以上に,複数のセンサデバイスと高性能のプロセッサやメモリを組み合わせて,複数の情報から外界の状態を総合的に判断できるインテリジェントなセンサが増えています.


◆ センサで広がる新しい電子機器の世界
◆ 人間の感覚器官とセンサ
◆ A-Dコンバータ

◆ システム全体の高性能化

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Copyright 2001 宮崎 仁