組み込み型のソフトウェア開発の世界では,構造化手法以降において主流となりうる効率的な開発手法や方法論が,製品開発の現場では存在しなかった.構造化手法は画期的ではあったが,分析工程に工数がかかるということと,分析工程から設計工程への作業の接続性が悪いという問題については解消してくれなかった. そのため,このことで,開発生産性の改善に対する期待は裏切られ,手法が悪いわけではないのに,広くソフトウェア開発に使われるまでにはいたらなかった.また,機能分割と詳細化だけでは効果的な再利用を生むことはなく注1,ソフトウェア開発の生産性を向上させるにはいたらなかった. オブジェクト指向は,先行するビジネス系あるいはアプリケーション系ソフトウェアの開発では,一般的な開発方法論としての地位を確立した.しかし,組み込みソフトウェアという制約のうえでは,論理的に実現可能でも,情報隠蔽やオブジェクト間通信におけるオーバヘッドによるリアルタイム性に対する不安があったため,製品開発における実績はほとんど報告されていなかった. また,オブジェクト指向開発方法論についても,ある時期までは複数の方法論が乱立し,互いに互いの方法論を批判している状況で,かつ,その論争はほぼ不毛であり,われわれ開発現場のエンジニアには何の益ももたらさなかったといえる. そんな状況のなか,UML(Unified Modeling Language)という統一化の動きが起こりはじめ,初めて組み込みソフトウェアの開発においてもオブジェクト指向のアプローチが可能だと判断できる状況になってきた(図1).
注1:もちろん,たとえばソフトウェアが可視化(データフローや状態図を作成することでソフトウェアの構造や動きを図で表現する)されることで,開発されるソフトウェアの品質を向上させるということはまちがいないが,再利用するにあたっては,おおもとの要求機能が変わるような場合には,工数を含めた柔軟な対応ができなかった.
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