● コンピュータ・シミュレーション

 では,コンピュータ・シミュレーションとは,そのような“シミュレーション”をただ単にコンピュータの上で行うだけのものなのでしょうか.もちろん,そういうコンピュータ・シミュレーションもあります.風洞実験をコンピュータ上で行う「数値風洞」などは,まさにそうでしょう.コンピュータなら比較的容易に模型の細部を変更したりできますから,その点は本物の風洞より有利です.

 『電車でGO!』だって立派なコンピュータ・シミュレーションですよね.しかも,リアルタイムです.もちろん,ビデオと機械制御でトレインシミュレータを作ることもできますから,コンピュータでなければできないものというわけではないのですが,機械式では大がかりすぎて家庭で遊べません.

〔図2〕フライトシミュレータ
素人にはコンピュータ上でしか体験できない
(NekoFlight,http://homepage1.nifty.com/kaneko/)

 一方,コンピュータを使わなければできないシミュレーションもあります(もちろん,逆にコンピュータではかえってやりづらいシミュレーションもあるが).


 巨大建造物の強度シミュレーションはどうでしょうか.恐竜がどのように歩いていたのかを知るために,コンピュータ上でいろいろな歩き方をさせてみるというのは? あるいは,直接目では見られない原子や分子の世界を目に見えるようにすることも,コンピュータならできますね.

 星や銀河の形成のように手の届かない遠い場所で起きている現象やあまりにも時間がかかりすぎてとても観測できないような現象でもシミュレーションしてみることができます.

 コンピュータは“シミュレーション”の概念や応用範囲を大きく拡げました.この世界そのものをコンピュータ上にリアルタイムに構築しようとするバーチャルリアリティもまたシミュレーションです.virtualは“仮想”と訳されることが多いようですが,日常用語としては“事実上”とでも訳すべきものですよね.

 つまり,virtual realityという言葉には“(本当は現実じゃないのだけれど)現実といっていいくらいのもの”というニュアンスがあるのではないかと思っています.シミュレーションの行き着く先の一つが,このVRなのでしょう.

 さらには,現実の世界にはないものや,この世界とはまったく違う物理法則にしたがう世界のようすなど,完全に人工的な世界だって,工夫すればコンピュータ上に作り上げることができます.そう,現実そっくりの世界かもしれないし,あるいは現実とは似ても似つかない世界なのかもしれないけれど,コンピュータ・シミュレーションというのは,平たくいえばコンピュータの中に世界を(あるいは世界の一部を)構築しようとするものなのです.

人工世界

 だからといって,コンピュータならどんなものでもシミュレーションできて,なんでもわかるのかといえば,残念ながらそう簡単にはいきません.理論なんかいらないよ,シミュレーションさえあればいいよ,という極論をいう人もたまに見かけますが,なかなかそういうわけにもいきません.

 なぜなら,コンピュータは万能ではないからです.万能ではないコンピュータの中に世界を構築しようとするなら,いろいろ考えなくてはなりません.では,コンピュータには何ができて何ができないのか,それが問題です.


インデックス
 ◆シミュレーション・シミュレーション
 ◆コンピュータ・シミュレーション
 ◆コンピュータにできることとできないこと

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Copyright 2002 菊池 誠