1 無線LANの標準化を担う
  IEEE802.11ワーキンググループ

 無線LANの標準化を行う代表的な機関は,米国のIEEE(Institute of Electrical and Electronics Engineers)の802委員会配下にあるワーキンググループ(WG)11である.このIEEE802.11ワーキンググループは,1990年に設立されて以来,7年の年月を経て最初の標準規格「IEEE802.11」を完成させた.

 この規格の対象となるのは,データリンク層の分散制御や集中制御などのプロトコルに関するMAC(Media Access Control,媒体アクセス制御)レイヤと,データ伝送速度や無線周波数帯域などに関する物理レイヤである.また各層のマネジメント機能も規定されている(図5).

〔図5〕IEEE802.11のレイヤ構造

 MACレイヤの技術としては,Ethernetで用いられる自律分散制御方法を踏襲したCSMA/CA(Carrier Sense Multiple Access with Collision Avoidance,衝突回避機能付きキャリア感知多元接続)と,オプション規定としてポーリング方式が採用されている.また,物理レイヤには,

(1) 2.4GHz帯を用いた直接拡散方式(DS-SS)
(2) 2.4GHz帯を用いた周波数ホッピング方式(FH-SS)
(3) 赤外線通信方式

の3種類が規定されている.2.4GHz帯での方式は,ISM(Industrial,Scientific and Medical applications)バンドと呼ばれる周波数帯のため,耐干渉性に優れたスペクトル拡散方式が採用された.伝送速度は1Mbps,2Mbpsである.

 現在,IEEE802.11ワーキンググループでは,表1に示すようなタスクグループ(TG)に分かれて審議がなされている.各タスクグループは,設立された順に小文字のアルファベットが付与される.すでに標準化作業を終了したものもあるが,無線LANの高速化や高品質化を目的とした審議が続けられている.

〔表1〕IEEE802.11のおもな検討グループ構成(2002/10月現在)
Task
Group
検討内容
状 況
TGa 5GHz WLAN(OFDM) 作業終了
TGb 2.4GHz WLAN(CCK) 作業終了
TGc MAC Supplement to IEEE802.1d 作業終了
TGd Update of Regulatory Domains → R-REG 進行中
TGe MAC Enhancement(QoS Support) 進行中
TGf IAPP(Inter-Access Point Protocol) 進行中
TGg High Rate Extensions to 802.11b(over 20M bit/s) 進行中
TGh Spectrum Management for 802.11a(TPC&DFS) 進行中
TGi Enhanced Security 進行中
HT SG High Throughput Study Group 進行中
WNG SC Wireless Next Generation Standing Committee 進行中

 各タスクグループの活動を,レイヤ構造に対応して整理したものを図6に示す.IEEE802.11ワーキンググループでは,「一つのMACレイヤに複数の物理レイヤ」を基本的なコンセプトとしている.これは,上位のIPレイヤから見てどの無線LANでも同一に扱えることができるようにするためである.現在,普及しているIEEE802.11bやIEEE802.11aといった規格は,伝送速度の高速化を目的とした物理レイヤの規定である.

〔図6〕IEEE802.11の検討グループ構成


インデックス
第1章 IEEE802.11方式を中心とした ワイヤレスネットワーク技術の現況
 ◆無線LANの特徴/無線LANの発展と普及/公衆無線LANサービスへの展開
 ◆1 無線LANの標準化を担う   IEEE802.11ワーキンググループ
 ◆2 IEEE802.11方式無線LANのMACレイヤ技術

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Copyright 2003 阪田 徹