第1章 IEEE802.11方式を中心とした
ワイヤレスネットワーク技術の現況

 オフィスはもとより,家庭内においても情報化が進み,パソコンは一家に一台から,一人一台の時代となってきている.インターネットの急速な普及とパソコンや周辺機器の増加により,ネットワーク構築の要望は当然高まってきている.近年,各種無線LANやBluetoothなどのワイヤレスネットワークが,手軽にネットワークを構築・拡張する手段として注目を集めている.なかでも,2.4GHz帯の電波を用いた無線LAN機器は,コンシューマ向け製品の低価格化にともない爆発的な普及が進んでいる.本章では,現在もっとも普及しているIEEE802.11方式の無線LANの技術や標準化動向などを中心に,無線LANについて解説する. (筆者)

● 無線LANの特徴

 無線LANは,ネットワークを構築する際にネックとなるケーブル敷設の問題を解決する有力な手段として普及してきた.さらに,ノートパソコンやPDAといった携帯型情報端末の普及により,端末を移動して使いたいといった要望に応えるものとして期待されている.

 このように無線LANの特徴は,

・ケーブル敷設の煩雑さから開放されるため,既設住宅などへのLAN構築の自由度,拡張性を提供できる

・通信媒体が無線であることから,端末の可搬性,ユーザーの移動性を損なわないで,通信エリア内のいたるところからネットワークへのアクセスを可能とする利便性を提供できる

という点にある.

 前者は無線LANの原点ともいえるもので,「配線」の呪縛から解き放たれたいといった要望であるが,後者は,無線という特徴と携帯型端末の組み合わせにより,新たなサービスへの発展を望むものと考えられる(図1).

〔図1〕無線LAN導入のトリガ

● 無線LANの発展と普及

 オフィスや家庭内に増加する情報機器を結ぶワイヤレスネットワークも,ブロードバンド化の波を受けて発展してきている.ISDNがおもなアクセスラインであり,伝送速度がkbpsレベルだった時代は,PHSや2.4GHz帯無線LAN(IEEE802.11,〜2Mbps)を適用したワイヤレスTAなどがネットワークのワイヤレス化に利用されてきた.しかし,近年の爆発的なADSL,CATVなどの普及によるブロードバンド化にともない,ワイヤレスネットワークにも広帯域化が望まれていた.そこで,アクセスラインに対応した伝送速度をもつ2.4GHz帯無線LAN(IEEE802.11b,〜11Mbps)が,1999年のアップルコンピュータのAirPortの発売をきっかけとした機器の低価格化もあいまって,広く普及してきている.

 さらに2001年後半からは,より広帯域かつ他のシステムとの干渉のない5GHz帯を用いた無線LAN(IEEE802.11a,〜54Mbps)が製品化され,ブロードバンド時代のワイヤレスネットワーク媒体として無線LANが市民権を得るにいたった(図2).

〔図2〕高速アクセスライン(10Mbps)時代のホームネットワーク

 現在,今後来たるべき光ブロードバンドの時代に向けた広帯域伝送化(100Mbps級)を実現する超高速無線LANの検討が進められている.

● 公衆無線LANサービスへの展開

 ノートパソコンの普及とともに,外出先でもブロードバンド環境を享受したいという要望が高まっている.家庭,オフィス,外出先などでシームレスなブロードバンド環境を実現するノマディックワイヤレスアクセス(NWA,図3)の一つの形として,家庭やオフィスで利用している無線LAN端末を適用した公衆無線LANサービスが,多くの事業者によってサービスが開始または検討されている.

〔図3〕ノマディックワイヤレスアクセス(NWA)

 NTTコミュニケーションズでは,2002年5月より,ホテルのロビーやファーストフード店,コーヒーショップなどの公衆スポットでの無線LANサービス「ホットスポット」の商用サービスを開始した(図4).2002年度内には,約1000箇所のアクセスポイントを設置する予定である.本サービスでは,もっとも一般的なIEEE802.11bに加え,より快適なブロードバンド環境を提供するためIEEE802.11aとのデュアルバンド・アクセスポイントを導入し,世界初のデュアルバンド対応公衆無線LANサービスを展開している.無線LANは,こうした「ユビキタスサービス」を支えるアクセスネットワークの媒体の一つとして,期待されている.

〔図4〕「ホットスポット」サービスの構成

インデックス
第1章 IEEE802.11方式を中心とした ワイヤレスネットワーク技術の現況
 ◆無線LANの特徴/無線LANの発展と普及/公衆無線LANサービスへの展開
 ◆1 無線LANの標準化を担う   IEEE802.11ワーキンググループ
 ◆2 IEEE802.11方式無線LANのMACレイヤ技術

今月号特集トップページへ戻る


Copyright 2003 阪田 徹