マイクロプロセッサが変えたエンジニアの必修科目

 エレクトロニクス技術で過去30年間の最大の変革はマイクロプロセッサの出現だといえる.マイクロプロセッサは極めて汎用性の高い機能モジュールであり,動作がソフトウェアで決まる.以前はアナログ回路技術,ディジタル回路技術,ソフトウェア技術は分離していて言葉も通じなかったのだが,マイクロコンピュータの出現以降はハードウェア技術者もプログラミング技術を知らなければ最終製品を作れないということになっている.

 論理設計に関していえば,用途が変わってもCPUまわりは定型になり,周辺回路部の設計が多くの設計者のおもな仕事になる.その結果,設計者はインターフェース規格を中心に回路設計を考えるようになる.マイクロプロセッサが普及した初期の段階では,特定用途向けLSIとマイクロプロセッサのインターフェース技術が重要な知識だった時期もあった.

 マイクロコンピュータのハードウェア技術が標準化されるにつれ,周辺回路のインターフェースも標準化されてデバイス設計に含まれるようになっていく.その究極がDOS/Vパソコンとその互換ボードである.

 このレベルになると,周辺回路のインターフェースもi810やi820といった標準チップセットに集約され,マザーボードレベルでの設計の自由度はほとんどない.この段階で,設計者はマイクロプロセッサの電気的な動作も考慮する必要がなくなり,抽象的な命令実行機械をもつ汎用論理ボードを設計のスタート地点にするようになる.

 現在のシステム設計者が,何かを設計しようとするときにもっとも気に留めているのは,外部インターフェースのプロトコルなのではないだろうか.システムが複雑になり,自分が設計する部分が大規模システムの一部でしかない場合が多くなってきている.

 さらに,インターネットが普及したことで,最初から巨大なシステムがすでに存在し,それに新しい機能を付加するだけという形の開発が多くなってきている.そのため,現在はインターネットプロトコルに代表されるネットワーク系のプロトコルが,多くのエンジニアの興味の中心になっている.

 現在でもマイクロプロセッサはロジックシステムの中核にあり,必須科目の筆頭であるといえる.従来なら,マイクロプロセッサの動作をレジスタレベルで理解することは,情報系エンジニアの必修科目だったのだが,いまや計算機工学の中核部分を理解していることが回路系エンジニアの基本技術になったわけである.これは,かつて単体トランジスタの回路設計を回路系エンジニアが意識しなければならなかったはずのものが,いつのまにかデバイス系エンジニアの手に渡ってしまったのと同じようなものである.


◆ あまりに広いエレクトロニクス分野
◆ エンジニアは何を中心に設計してきたか
◆ マイクロプロセッサが変えたエンジニアの必修科目
◆ さらに進む論理設計のソフトウェア化
◆ 21世紀初頭のエレクトロニクスエンジニアに求められるもの

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Copyright 2001 山本 強