振り返ってみると,エレクトロニクス系エンジニアの設計手法は,抽象化,ソフト化の道を進んできたといえる.そう遠からぬ将来,システム設計者はデスクトップPC上で大規模なハードウェアとソフトウェアで構成される機能回路をソフトウェア的に設計し,その動作シミュレーションを完了することができるようになる. それは,現在のPCの処理能力が向上するペースを見ていると容易に予測ができる.しかも,主だった論理機能はライブラリとして提供されているわけだから,論理回路に関する詳細な知識が必要というわけでもない. Visual Basicにより,現実的なアプリケーションをソフトウェアコンポーネントの組み合わせとして作れるようになったのと同じ状況が,ハードウェア設計でも可能になると考えるのが自然である. このようになった段階で,エレクトロニクスエンジニアは何を考え,何を勉強しなければならないのだろうか? この問いに関する答えは一つではないかもしれないが,筆者が考えるには二つの方向性があると思う.一つは基本に帰ること,もう一つは現在の設計技術の先を意識することである(図3).
● 基本に帰る 基本に帰るという意味は,単体トランジスタのレベルで回路の動作を見なおし,今後重要になるいくつかの問題を解決するということである.具体的には, 1) 低電圧,低消費電力回路設計 これまで,回路設計,とくにディジタル系の設計では高機能化と高速度化の方向が重視されてきたが,これから重要になるエネルギー問題や,モバイル機器の台頭などを考えると,重要なのはここに挙げた三つの技術要素なのではないだろうか.いずれも論理設計以前の問題であり,回路系エンジニアが忘れかけている領域である. ● 現在の先を意識する 現在の設計技術の先を意識することを考えよう.これまでの回路設計者には,機能は誰か他者から与えられて,それを実現するための技術を提供するという能力を評価されていたのではないだろうか? それが回路設計者に与えられた重要な問題だったのである.問題解決とはいっても,その問題が方程式のレベルで与えられるならコンピュータでも解けることになる.それと同等の問題解決能力では,エンジニア=コンピュータとなってしまう. コンピュータに乗る設計技術はコンピュータに任せ,エンジニアは現在の設計手法で何が実現できるかを考えることが仕事になるべきである.すなわち,「問題を作る」という形の設計である.エレクトロニクスシステムで何ができるのか,現在のエレクトロニクスが何を可能にするのか,そういったレベルでシステム設計を考えるのが21世紀のエレクトロニクス系エンジニアの姿であってほしい.
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