-Prologue-
画像処理システムの要素技術

● 注目されるJPEG2000

 さて,話を画像圧縮技術に戻します.

 現在,広く使われている形式の一つにJPEGがあげられます.ディジタルカメラなどでも画像を保存する形式として採用されているので,ご存じの読者が多いと思います.JPEGは国際標準化された画像圧縮形式なので,システム間での互換性が高く,しかも圧縮率が高いので広く活用されています.

 しかし,技術の進歩に終わりはありません.JPEGには短所もあります.

 JPEGで最大の問題は,圧縮率を上げれば上げるほど,画像が劣化してしまうという点です(あたりまえだが).圧縮率を上げれば,たしかに高効率でデータ転送できますが,処理すべき画像が元の面影をとどめないほどまでに劣化してしまったのでは,使いものになりません.

 したがって,JPEG並みの高圧縮率をもちながら,画像の品質が保たれるような形式が切望されるようになりました.その要求に応えるべく,より良い品質を保ったまま画像を圧縮できるアルゴリズムを採用した静止画像圧縮標準規格JPEG2000が登場しました.

 しかし,世の中,そんなに都合の良い話はありません.JPEG2000は,JPEGに比べて圧縮/伸張に必要とされる演算処理量が増えてしまっているという問題点もあります.つまり,同じハードウェア上でソフトウェアによってJPEG2000を実装した場合,JPEG以上に処理時間がかかってしまうわけです.

 JPEG2000はJPEGに比べ,圧縮で5倍〜6倍,伸張で3倍〜4倍の処理能力が必要といわれています.この点は,速度が重視される分野で大きな障害になってしまいます.

 しかし,昨今のCPUの高速化・低価格化という流れから,画像のデータ形式としてJPEG2000を採用しても十分に使えるだけの処理速度をもつシステムが低価格で入手できるようになりました.ここから先は,鶏と卵のたとえになってしまいますが,JPEG2000の普及と,CPUの高速化・低価格化は連動しているような状況です.

〔図3〕JPEGとJPEG2000による圧縮画像(元画像を1/90に圧縮)の比較〔提供:アナログ・デバイセズ(株)〕
 図3に,JPEGとJPEG2000で,同じ画像を同じ圧縮率で圧縮した画像を示します.JPEGでは歪みがかなり目立つ画像に変化していますが,JPEG2000は十分見られる画質を保っています.

 また,静止画だけにとどまらず,JPEG2000を動画処理にも応用しようという動きがあります.動画像形式としてMPEGがよく知られていますが,MPEGは時間軸方向の圧縮も行っているため,圧縮/伸張システムが大規模になってしまう,データの切り出しや編集が難しくなってしまうという問題があります.

 そこで,時間軸方向の圧縮をすることなく,単位時間ごとに連続した静止画を圧縮するMotionJPEG2000が注目されています.MPEGに比較すればシステムの軽量化を図ることができる,編集なども容易に行えるといった利点を得ることができます.

参考文献

1)井上誠喜,八木伸行ほか著,『C言語で学ぶ実践画像処理』,オーム社

2)土屋裕,深田陽司共著,『画像処理』,コロナ社

3)三池秀敏,古賀和利編著,『パソコンによる動画像処理』,森北出版

4)貴家仁志,『よくわかるディジタル画像処理』,CQ出版(株)

5)藤原洋監修,『画像&音声圧縮技術のすべて』,CQ出版(株)

6)藤原洋監修,『実践MPEG教科書』,アスキー

7)加藤茂夫ほか,「ディジタル画像とそのフォーマット」,『インターフェース』,1998年4月号

8) 「画像処理について」〔コグネックス(株)のホームページ〕 http://www.cognex.com/ckk/


プロローグ
  ● 産業用組み込みシステムにおける画像処理
  ● 注目されるJPEG2000

第1章 JPEG2000を中心とした画像圧縮技術の新しい流れ

  はじめに
  1. JPEG2000の概要


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