-Chapter1- JPEG2000を中心とした画像圧縮技術の新しい流れ
1. JPEG2000の概要

 まず,JPEG2000の特徴をより正確に理解していただくために,準備としてJPEG2000の概要を説明する.なぜJPEG2000の規格化が必要だったか,符号化の手順,またもっとも重要な要素技術の一つであるウェーブレット変換について,簡単に解説する.

● JPEG2000の必要性

・JPEG2000の目標

 JPEG part1のISは1994年2月に出版された13).その後,ディジタル画像は急速に普及し,画像の流通や通信環境も急激に変化し,多様化している.その結果,JPEGでは十分な対応ができない場合が生じている.そのような背景から,JPEG2000ではおもに先にあげた特徴を目標として規格化が進められた.

〔図2〕JPEGとJPEG2000の画質の比較(lenaを1/80に圧縮)
(a)原画像
(512×512,8bpp)
(b)JPEG2000
(0.1bpp,PSNR=29.95dB)
(c)JPEG
(0.1bpp,PSNR=26.68dB)
(d)
(b)の拡大画像(ブロック歪みなし)
(e) (c)の拡大画像
(8×8単位でブロック歪みが発生)

 図2は,原画像〔同図(a)〕を同じビットレート(bpp:ビット/ピクセル)でJPEGとJPEG2000でそれぞれ符号化(圧縮)し,復号化(伸張)した結果である.ここで,PSNR(peak signal-to-noise ratio)は,符号化による画像の劣化の尺度の一つであり,

PSNR=
(dB)(1)

と定義される.ただし,NおよびMは画像の縦と横の画素数であり,pij )は原画像の場所(ij )の画素値,p'(ij )は伸張画像の場所(ij )の画素値,Tは画像の階調数−1(8ビット/ピクセル画像ではT=255)である.JPEGに比べ,JPEG2000が高いPSNR値をもち,符号化にともなう劣化が少ないことがわかる.また,JPEGでは8×8画素単位でブロック歪みが発生するが,JPEG2000では発生しない.そのため,JPEG2000の画像は数値的にも視覚的にも良好な画質をもつ〔特徴 a)〕.

 JPEG2000の第2の特徴は,高い階層性をもつ符号化であることである〔特徴 b)〕.この特徴は,図3のような応用においてとくに重要となる.すなわち,符号化された高品位な画像を種々のレベルの画質で復号できる機能である.モバイル端末,PC,テレビの例からもわかるように,画像を表示する端末は多様であり,符号化もそのような環境に対応できる必要性が強く求められている.

〔図3〕階層的符号化の特徴

 符号化には可逆符号化(ロスレス符号化)と非可逆符号化(ロッシー符号化)がある.従来の符号化法では,それぞれに異なった方式を用いてきた.たとえば,JPEGのロッシー符号化では離散コサイン変換(DCT)を用いるが,JPEGのロスレス符号化ではDCTを使用しない.その後にIS化されたロスレス符号化であるJPEG-LSでも,DCTは使用しない.

 もし,ロスレス符号化とロッシー符号化がほぼ同じ符号化方式により統合〔特徴 c)〕されるならば,無歪みの画像を含む広範囲の画質をサポートできる階層的符号化,さらに両符号化で装置を共有でき,装置開発の単純化が可能となる.

 MPEGやJPEGでは,一般に画素値が8ビットの画像(256階調画像)を符号化することを想定している.しかし,256階調以外の画像は多数存在する.たとえば,医療画像やテレビ局がもつマスタ画像などは,256より高い階調をもつことが多い.また,ディジタルカメラなどでは数百万画素という,高い解像度の画像を符号化する必要性が生じている.

 もし一つの符号化方式により,このような種々の画像を符号化できるならば,画像の種類ごとに装置を準備する必要がなくなり,さらに画像の使用において互換性が高まることが期待できる〔特徴 d)〕.

 上述した四つ以外にも,JPEG2000には優れた特徴がいくつか存在するが,詳細については後述する.

以降の内容は本誌を参照ください

プロローグ
  ● 産業用組み込みシステムにおける画像処理
  ● 注目されるJPEG2000

第1章 JPEG2000を中心とした画像圧縮技術の新しい流れ

  はじめに
  1. JPEG2000の概要


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