4. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)

● ナイキスト基準とロールオフフィルタ

 さて,零ISIを実現するシステムは,そのインパルス応答が図6(a)に示すようにT(sec)ごとにゼロクロスしなければならない.

〔図6〕おもなイーサネット規格の比較

 これをナイキスト第1基準と呼ぶ.このナイキスト第一基準を満足するシステムを,ナイキストフィルタと呼ぶことにする.

 図6(a)は,アナログで実現した場合のナイキストフィルタのインパルス応答ht)の例である.ht)の一例として,次に示すsinc関数がある.

   (1.2)

 ディジタルフィルタでナイキストフィルタを構成する場合は,同図(b)のようにアナログのインパルス応答をサンプルレート1/T 'でサンプリングした値を利用する.この場合は,シンボルレート1/T に対して4倍のサンプルレートを有するディジタルフィルタで,すなわちT =4T 'の例である.

 さて,零ISIを実現するシステムが,ナイキスト第一基準を満足しなければならない理由を,以下の例題で検討してみよう.

例題1.2 ナイキスト基準とディジタルフィルタ

 シンボル間隔がT(sec)であるNRZ信号xnT ')を入力とする線形時不変ディジタルフィルタを考える.そのインパルス応答h(nT ')が,図6(b)のようにT(sec)ごとにゼロクロスする場合,そのフィルタの応答ynT ')は図(a)のように零ISIとなることを示せ.

[解]

 まず,線形時不変システムの応答y(nT ')は,式(1.3)で示すように入力信号とインパルス応答のたたみ込みで表される〔参考文献1)〕.

(1.3)

 ただし,タップ数がN のFIRフィルタとし,その回路図を図7(a)に示す.ここで,入力信号xnT ')はT(sec)間隔で−1か1であるので,出力ynT '),すなわちシステムの応答は,式(1.1)に基づきインパルス応答がT(sec)ごとにシフト,あるいは正負反転してシフトし,各サンプル点で加算された波形となる.

 たとえば,図7(b)xnT ')が入力されたとして,各入力信号に対する応答は図(c)となり,各シンボル点でISIが発生していない.ただし,図(c)は,見やすくするためにアナログ信号的に表示している.また,T =4T ',N=32としている.

 図(c)の波形を各サンプル点で加算すると実際の出力信号ynT ')が得られる.そのynT ')を2周期ごとに重ねて描くと,図5(a)のような零ISIとなる応答波形が得られる.

〔図7〕ロールオフフィルタ

● ナイキスト/ロールオフフィルタの振幅特性

 ナイキスト第1基準を満足するシステムとして,図8(a)に示すカットオフ周波数fn =1/2T となる理想LPFがある〔インパルス応答は式(1.2)〕(問題1.2).T はシンボル間隔である.

〔図8〕零ISIとなるフィルタの振幅特性

 しかしながら,理想フィルタはインパルス応答が,負の時間も含めた無限長になり実現不可能であるため,実際は図6に示すように有限長インパルス応答としてLPFを実現する.これを,ロールオフフィルタと呼んでいる.

 ロールオフフィルタは,ロールオフ率と呼ばれるパラメータa により,図8(b)のように遮断特性が異なる.図のようにロールオフ率a がゼロに近づくと急峻な振幅特性となり周波数利用効率は上がるが,欠点としてアイが狭くなりシンボルの判定タイミングずれによりビットエラーが生じやすくなる.

 理由は,図6に示したようにインパルス応答のサイドローブの値が大きくなるからである.ロールオフフィルタの遮断域特性は,次節で述べるように余弦波で表されるので,このようなLPFをコサインロールオフフィルタと呼ぶ.



注2:NRZ符号:Non Return Zero.零値をとらない符号.たとえば,2値符号の場合,0,1に対し−1,1とする.

1. 特集執筆にあたって

-ディジタル信号の帯域制限-

2. データ伝送とディジタル通信システム
システムの概要,バイナリデータとシンボル

3. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)
パルス波形の周波数スペクトル,符号間干渉

4. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI
ナイキスト基準とロールオフフィルタ,ナイキスト/ロールオフフィルタの振幅特性

5. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)
コサインロールオフフィルタ,コサインロールオフフィルタのインパルス応答

6. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)
オーバサンプリング・ロールオフフィルタ,ルートロールオフフィルタ


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Copyright 2001 尾知 博