-ディジタル信号の帯域制限-

 ディジタル信号,すなわちパルス信号を有する周波数スペクトルは,高調波を含む非常に広帯域な信号である.したがって,有線・無線を問わず,通信システムを構成する際には周波数の有効利用などを考えて通信データをできるだけ狭帯域で伝送することが望ましい.そこで,ここではディジタル信号の帯域制限の方法について議論する.

データ伝送とディジタル通信システム

● システムの概要

 ディジタル通信システムは,「バイナリ系列を変調して,有線あるいは無線で送受信するシステム」と定義できる.その概要を図1に示す.

〔図1〕ディジタル通信システムの概要

 まず,送信側では,伝送したいバイナリ系列に対し,誤り訂正符号化を施して送信データとする.送信データは,シリアル-パラレル(S/P)変換によりmビット単位のシンボルデータに変換してフィルタで帯域制限を行う.ついで,変調回路を通してキャリア周波数まで信号を周波数シフトする.

 ここで,無線系の場合は,D-A変換後にさらに2次変調を施し,無線周波数帯まで周波数シフトする.最終的に,電力増幅を行いアンテナに変調信号を供給する.携帯電話機などのような場合は,複数のユーザーを同じ周波数帯域内で多重化するマルチプルアクセス方式を採用することもある.

 受信側では,送信の逆の操作を受信シンボルに対して施し,元のバイナリ系列を再生する.受信器特有の機能としては,キャリア同期とシンボル同期がある.キャリア同期は,送信器と受信器のキャリア信号の周波数と位相の偏差をゼロにする回路である.シンボル同期は,オーバサンプリングされたシンボルデータに含まれる元シンボルのタイミングを抽出し,元シンボルを再生する回路である.

 本特集では,通信データの帯域制限と各種の変復調方式,等化回路などについて,順を追って説明する.

 まずは帯域制限について見ていくことにしよう.

● バイナリデータとシンボル

 ディジタル通信システムは,ディジタルデータ,すなわちビット単位で表されるバイナリデータを送受信するシステムである.単純にバイナリ,すなわち2値データを直接送受信する場合もあるが,通信の高速化を図るため,図1のようにS/P変換を介してm ビット単位の多値データを送受信する場合が一般的である.

 ここで,m ビット単位の多値データを符号(シンボル)と呼ぶ.m =2の4値シンボルの場合のビットとシンボルの関係を図2に示しておく.ここで,シンボル値は{0 1 2 3}と値をすべて正の値とする場合と,0を中心に{−3 −1 1 3}とする2通りが考えられ,一般的には後者を用いる場合が多い.

〔図2〕バイナリデータとシンボル(m=2)

クイズ1.1 バイナリデータとシンボル

 図2のバイナリデータに対し,m =3,すなわち8値の場合のシンボル波形を描け(以下,解答はすべて章末).


1. 特集執筆にあたって

-ディジタル信号の帯域制限-

2. データ伝送とディジタル通信システム
システムの概要,バイナリデータとシンボル

3. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)
パルス波形の周波数スペクトル,符号間干渉

4. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI
ナイキスト基準とロールオフフィルタ,ナイキスト/ロールオフフィルタの振幅特性

5. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)
コサインロールオフフィルタ,コサインロールオフフィルタのインパルス応答

6. 帯域制限によるシンボル間干渉(Inter Symbol Interference:ISI)
オーバサンプリング・ロールオフフィルタ,ルートロールオフフィルタ


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Copyright 2001 尾知 博