人間には五つの感覚器官,つまり,目(視覚),耳(聴覚),鼻(嗅覚),舌(味覚),皮膚(触覚)がある.そして,マイクロフォン,フォトディテクタ,ガスセンサ,各種化学センサ,圧力センサなどの計測機器は,それらを人工的に作ったものであるといえよう.
まず,遠くからぼんやり眺めるが,そのうち,近づいて虫眼鏡をもってきて見たり,違う向きからも眺めてみる.本物かどうか騙されないように,見るだけではなく触ってみる.生きているかどうかわからなければ,声をかけて答えがあるかどうか耳をすませて聞き,応答がなければ,叩いたりつねったりして反応をみる. ただし,あまり強く叩いてはいけない.「死にかけている」ようならば,強く叩くことによって本当に死んでしまうかもしれないからだ. ここに,科学計測における新しいデータ処理のヒントがたくさん隠されている.複数のセンサを用いて得られる複数のデータソースから多角的・統合的に計測データを解釈すること(センサフュージョン)や,センサ側から能動的に刺激を与えて応答を見るというアクティブフィードバックなどといった基本的な概念を,これから述べる. 図2は,コンピュータによる計測データの処理・解析の構成図を示している.図2(a)は従来の計測・データ処理解析法であり,図2(b)はこれからの方法のコンセプトを表している.そして,図2(b)は計測対象の物質・物体・状態を未知の物体である恐竜に置き換え,コンピュータを少年に置き換えると,まさに図1の例と一致する.
従来の計測〔図2(a)〕では,コンピュータ処理がリアルタイムでは追いつかず,このようなフィードバックシステムは構成されなかった. 本章では,このような新しい計測学における要素的考え方を一つずつ解きほぐしていこう. ![]() 5月号特集トップページへ戻る Copyright 2001 河田 聡 |