科学計測に機械計測や電気計測と大きな違いがあるとすれば,それは科学計測においては,得られる信号がことのほか微弱であったり,ことのほか大きな雑音が混入していたり,測っている信号自身が過度に不安定であったりと,要するにきわめて厳しい条件下にあることにある.
プローブ(すなわちセンサ)を用いて測ることにより,信号は必ずこのように揺らぐ.普段はあまりこのことを問題にしなくてもよいのは,プローブのインピーダンスが回路のインピーダンスに比べて十分に高く,オシロスコープは測定回路からほとんど電流を奪わないためである. しかし,正確には,プローブをつなげることによって回路は必ず変わり,信号はプローブがないときとはわずかであっても必ず異なる.つまり,オシロスコープによる波形観察の実験は,プローブ自身のインピーダンス測定の実験にすらなりかねないのである. 信号を計測・検出するためには,信号源からほんのわずかな信号をもらってきて,それを分析することになる.料理の味見と同じである.ところが科学計測においては,この例のように,測定すべき信号がきわめて微弱であることが多い.このような場合,計測器がその信号をわずかでも吸い取ると,信号源自身が狂ってしまう(図13).
そこで,プローブを通して得られた信号から,プローブがないときに得られるであろう信号を求めなければならない.これは,非線形系の逆問題を解くことになり,簡単なことではない.あるいは,物理学における多体粒子系の解法問題と同じ話であり,逆問題の本質を扱っていることになる. ![]() 5月号特集トップページへ戻る Copyright 2001 河田 聡 |