4.非線形効果の積極利用――ディジタル化への道

  従来の計測法では,通信の世界と同じように,測定信号に対してほかのチャネルの信号や雑音は,加算的に混入することが多い.もし,測定対象の信号だけが2乗,3乗に増倍されるならば,ほかの信号より高感度に信号を抽出して検出することができる.このような計測法は非線形計測と呼ぶことができる.

 きわめて強力な光を透明な試料に当てると,透明な試料であっても吸収が起きる.これは,二つあるいは三つのコヒーレント(coherent)なフォトンが同時に試料によって吸収されることで生じる現象であり,多光子吸収過程として知られる5),6)

 一つのフォトンがもつエネルギに対しては透明な物質が,二つのフォトンがもつエネルギの和に対しては不透明になる場合に生じる.光の吸収量は,光の強度に比例するのではなくその2乗(または3乗)に比例する.2個(あるいは3個)のフォトンが吸収に必要なためである.

 この原理は非線形光学として物理学の分野においてはよく知られていたが,最近のパルスレーザ(それは瞬時の出力パワーが高い)の実用化にともなって,計測の分野でも広く用いられるようになってきた.

 科学計測に関連する非線形効果の入出力関係の例を図7に示す.とくに2値化(binarization)は,計測信号のディジタル化でもあり,非線形の究極である.あるしきい値以上の信号はON,それ以下はOFFとなる.相転移(液体と固体,超流動や超伝導),結晶におけるドメインの反転,結晶とアモルファスなど,その例は枚挙にいとまがない.この話題を進めると,複雑系の科学になる.

図7非線形入出力の例


参考文献
5) 「特集 二光子科学(1)」,『OplusE』,98年8月
6) 「特集 二光子科学(2)」,『OplusE』,98年9月


1. データ処理の役割は科学計測の第六感
2. 計測の多角化「センサフュージョン」
3. シングルチャネル検出法――スキャニングの時代
4. 非線形効果の積極利用――ディジタル化への道
5. 間接的計測法――ハイフネーティッド計測法
6. 天秤による計測「零位法」
7. アクティブ制御機構をもつ計測システム
8. 計測プローブのインピーダンス――計っているのか計られているのか?
9. Youngの干渉実験――フォトンは,エレクトロンは,なぜ干渉するのか!?
◆  特集に登場する用語の説明

5月号特集トップページへ戻る


Copyright 2001 河田 聡