◆ 特集に登場する用語の説明 ◆
第1章
フーリエ変換分光法(Fourier transform spectroscopy)
分光法の一つで,光の干渉現象を利用する方法.被測定光を2光路に分割し,一方の光路長を時間的に変化させ,再び結合すると,干渉光強度は時間の関数の波形(インターフェログラム)となる.これは,含まれる光の波数に比例した周波数をもつコサイン波の合成形であり,フーリエ変換することにより,光のスペクトルが得られる.S/N比,エネルギ利用効率,波数精度などの点で,従来の分数型分光法より優れている.
インピーダンス(Inpedance)
線形回路網の端子対電圧のラプラス変換V(s)に対する端子対電流のラプラス変換I(s)の比.
第2章
カオス(Chaos)
決定論的な方程式にしたがう系でも,周期性をもたずに一見不規則でランダムな挙動を示すことがある.このような状態をカオス状態と呼ぶ.このカオスについて,数学的に厳密な定義は与えられていないが,系のリヤプノフ指数が正であることがカオスの一つの条件であるとされる.
期待値(Expection value)
平均値のこと.
白色雑音(White noise)
パワースペクトルが連続スペクトルをもち,かつ周波数によらず一定である雑音.白色雑音は,異なる時刻の間で自己相関がない.
Heisenbergの不確定性原理(Uncertainty principle)
量子力学においては,位置と運動量など互いに正準共役関係にある二つの物理量が同時に確定し得ないという原理.不確定性原理は,時間とエネルギとの間にも成り立つ.
フラクタル(fractals)
フラクタル集合のこと.数学的には厳密な定義は存在しないが,非整数のハウスドルフ次元をもち,自己相似構造をもつ集合のこと.
エルゴード性(Ergodicity)
定常確率過程において,時間平均による平均値と自己相関関数が,集合平均による平均値と自己相関関数に一致するものをエルゴード的という.したがって,定常エルゴード過程の場合のみ,時間平均と集合平均を等価に扱うことができる.
相関関数(Correlation function)
二つの定常な時間波形x
1
(t)とx
2
(t)において,異なる時点t
1
,t
2
での観測値の積の平均より得られる関数をx
1
とx
2
の相関関数という.これはt
1
とt
2
の差τ(=t
1
−t
2
)だけの関数となり,
R(τ)=<x
1
(t)x
2
(t+τ)>
と表される.とくにx
1
=x
2
の場合を,自己相関関数(autocorrelation function),x
1
≠x
2
の場合を相互相関関数(cross-correlation function)という.
マルコフ過程(Markov process)
時刻tに偶然量のとる値の分布が過去の任意の時刻にとった値だけに関係し,それ以前の履歴には影響されない確率過程のこと.
パワースペクトル(Power spectrum)
定常確率過程の自己相関関数のフーリエ変換のこと.測定波形のスペクトル強度,すなわち周波数の強度分布のことで,スペクトルの2乗である.
熱雑音(Thermal noise)
抵抗や半導体などで,キャリアの熱運動による揺らぎにより素子の両端に現れる不規則な電圧差のこと.ジョンソン雑音ともいう.
量子雑音(Quantum noise)
光や電子の量子的性質により生じる雑音.真空管などにおけるショット雑音や光通信における光子数のゆらぎなど.通常は,極低温や光領域の周波数でなければ熱雑音に隠れて問題にならない.
第3章
フーリエ変換(Fourier transform)
ある関数(あるいは測定波形)x(t)に対し,次の操作を行うことを指す.フーリエ積分と同義.
……………(1)
ωは角周波数であり,X(ω)はしばしばスペクトルと呼ばれる.また,X(ω)からx(t)を求める操作は,フーリエ逆変換と呼ばれる.
ウェーブレット変換(Wavelet transform)
関数展開法の一つ.範囲が限られた一つの関数を親ウェーブレットとして固定し,これに平行移動と拡大,縮小を施した関数系を用いて,ある関数f(t)を展開する操作.
ヒルベルト変換(Hilbert transform)
区間(−∞,∞)で定義された関数f(x)に対して,
…………(2)
(Pはコーシーの主値をとることを意味する.)
で表される変換のこと.光学における屈折率と吸収率の関係(クラマース-クローニッヒの関係式)は,このヒルベルト変換の関係である.
サンプリング定理(Sampling Theorem)
連続波形を横軸上の離散点に対する値で代表させる操作をサンプリング(標本化)と称し,サンプル値の系列が元の波形に含まれる情報をすべてもつようにサンプル間隔を規定する定理をサンプリング定理という.信号の周波数がWHz以下に限定されている場合は,1/(2W)の時間間隔でサンプリングすれば,元の信号の情報は失われない.
第4章
PLL(Phase locked loop)
位相比較器,低域通過フィルタ,誤差信号増幅器,電圧制御発信器からなる負帰還回路.
z変換(z-transform)
周期Tの離散値で構成される関数g(t)に関して,
…………………(3)
で与えられる関数G(z)を,g(t)のz関数と呼ぶ.
ラプラス変換(Laplace transform)
区間(0,∞)で定義された関数f(t)に対して,
…………………(4)
で与えられる操作を行うことを指す.
第5章
多変量解析(Multivate analysis)
観測値が複数の値からなるデータを統計的に扱う手法.因子分析,クラスタ分析,主成分分析などがある.
最小2乗法(Least-squares method)
誤差の2乗和が最小になるように解を求める手法
主成分分析(Principal component analysis)
多変量解析の手法の一種.外的な基準のない標本データからそのデータの特性を示す主成分を取り出すこと.
正則化最小2乗法(Regularized least-squares method)
数学的に悪条件(Ill conditioned)なシステムで最小2乗法を使用するとき,システムの数学的条件をあらあかじめ改善しておき,最小2乗解が雑音の影響を受けにくくすること.
第6章
ラマン散乱(Raman scattering)
光子の物質による非弾性散乱の一種.散乱後,光の波長は変化する.
1. データ処理の役割は科学計測の第六感
2. 計測の多角化「センサフュージョン」
3. シングルチャネル検出法――スキャニングの時代
4. 非線形効果の積極利用――ディジタル化への道
5. 間接的計測法――ハイフネーティッド計測法
6. 天秤による計測「零位法」
7. アクティブ制御機構をもつ計測システム
8. 計測プローブのインピーダンス――計っているのか計られているのか?
9. Youngの干渉実験――フォトンは,エレクトロンは,なぜ干渉するのか!?
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特集に登場する用語の説明
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