7.アクティブ制御機構をもつ計測システム

 最新の計測技法では,アクティブフィードバック回路をそのシステムの中にもっている(図2).昔のデータ処理(オフライン)を含む計測系においては,得られた実験結果からいかに巧みに必要とする情報を,コンピュータや手計算で引き出すかがたいせつであった.

 しかし,処理速度が圧倒的に高速化してきた現在では,計測されてさらに計算処理されたデータ結果を分析して,それを再び測定方法,測定環境にフィードバックする.その結果,より精度の高い計測結果が得られる.いわゆるアクティブフィードバック回路が形成されるわけで,ここにおいて計測と制御が一体化する.

 ふたたび身近な例を示す.図10は,濃淡の空間変化が非常に小さい画像である.これをそのままじっと見ているだけでは,その濃淡の変化の程度がわからない.そこで,この絵を窓を通して見て,絵を横に走らせてみる.すると,窓の中の明暗が変化するので,濃淡があることがわかる.この絵の移動速度を変えて,それによる明暗の変化の程度を知ることから,濃淡の分布が正確にわかる.
図10
変化の小さな信号の
ダイナミック検出法



    (18.5Kバイト)

 最近のインバータはダメだが,少し以前の蛍光灯なら,首を素早く振りながら蛍光灯を見ると,蛍光灯が点滅していることがわかった.先に述べた恐竜の例では,応答がなければ叩いたりつねったりした.これらもアクティブ計測の一つといえる.

 制御のために計測が援用されるのが,従来の計測と制御の一体化の発想であった.たとえば,ロボットには必ず目が必要である.人間の手が物をつかむときは,目でその距離を追わなければならないし,手が近づくと,指先は物に触れるのを感じながら,手が折れたり物が壊れないように優しくそれをつかむ.視覚センサと触覚センサが,手と指の運動の制御を支援しているのである〔図11(a)〕.

図11
「制御のための計測」と
「計測のための制御」



     (33.7Kバイト)

 しかし,ここで述べている新しい科学計測のありかたにおいては,計測と制御の関係が逆で,計測を制御系が支援することによる計測制御の一体化である.物を目で見るために,その近くに首を動かし,必要なら手に取ってみる.小さければ,物体を指先でぐるぐる回してみる〔図11(b)〕.似ているように見えて,じつはこれらは逆である.あるいは両者の融合といってもかまわない.


1. データ処理の役割は科学計測の第六感
2. 計測の多角化「センサフュージョン」
3. シングルチャネル検出法――スキャニングの時代
4. 非線形効果の積極利用――ディジタル化への道
5. 間接的計測法――ハイフネーティッド計測法
6. 天秤による計測「零位法」
7. アクティブ制御機構をもつ計測システム
8. 計測プローブのインピーダンス――計っているのか計られているのか?
9. Youngの干渉実験――フォトンは,エレクトロンは,なぜ干渉するのか!?
◆  特集に登場する用語の説明

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Copyright 2001 河田 聡