8.計測プローブのインピーダンス
         ――計っているのか計られているのか?

  科学計測に機械計測や電気計測と大きな違いがあるとすれば,それは科学計測においては,得られる信号がことのほか微弱であったり,ことのほか大きな雑音が混入していたり,測っている信号自身が過度に不安定であったりと,要するにきわめて厳しい条件下にあることにある.

 このような厳しい計測環境は,オシロスコープによる電気信号の測定においても,われわれは経験している.電気信号をオシロスコープによって計測するとき,測定点にプローブを当てて測るが,信号源があまりに微弱なら(すなわち,出力インピーダンスが非常に高ければ),プローブからオシロスコープへと電流が流れ出て(オシロスコープの入力インピーダンスが相対的に低い),その結果として測定点における信号の電圧が変わってしまう(図12).

図12
信号を測ることで信号が変わってしまう




              (18.1Kバイト)

 プローブ(すなわちセンサ)を用いて測ることにより,信号は必ずこのように揺らぐ.普段はあまりこのことを問題にしなくてもよいのは,プローブのインピーダンスが回路のインピーダンスに比べて十分に高く,オシロスコープは測定回路からほとんど電流を奪わないためである.

 しかし,正確には,プローブをつなげることによって回路は必ず変わり,信号はプローブがないときとはわずかであっても必ず異なる.つまり,オシロスコープによる波形観察の実験は,プローブ自身のインピーダンス測定の実験にすらなりかねないのである.

 信号を計測・検出するためには,信号源からほんのわずかな信号をもらってきて,それを分析することになる.料理の味見と同じである.ところが科学計測においては,この例のように,測定すべき信号がきわめて微弱であることが多い.このような場合,計測器がその信号をわずかでも吸い取ると,信号源自身が狂ってしまう(図13).

図13
必要な信号を測ると……




        (16.7Kバイト)

 そこで,プローブを通して得られた信号から,プローブがないときに得られるであろう信号を求めなければならない.これは,非線形系の逆問題を解くことになり,簡単なことではない.あるいは,物理学における多体粒子系の解法問題と同じ話であり,逆問題の本質を扱っていることになる.


1. データ処理の役割は科学計測の第六感
2. 計測の多角化「センサフュージョン」
3. シングルチャネル検出法――スキャニングの時代
4. 非線形効果の積極利用――ディジタル化への道
5. 間接的計測法――ハイフネーティッド計測法
6. 天秤による計測「零位法」
7. アクティブ制御機構をもつ計測システム
8. 計測プローブのインピーダンス――計っているのか計られているのか?
9. Youngの干渉実験――フォトンは,エレクトロンは,なぜ干渉するのか!?
◆  特集に登場する用語の説明

5月号特集トップページへ戻る


Copyright 2001 河田 聡