第43回
CMSはブログに終わらない

ブログの技術を支えるものは

 一般マスコミでブログ(Blog)に関する記事を頻繁に見かけるようになった.最近の話題として,米TIME誌が恒例の「Person of the year」と同様に,ブログ分野にもその年に最も活躍したものを選ぼうということで「Blog of the year」なるタイトルを設け,Power Line(http://www.powerlineblog.com/)が選ばれたということがある.ブログの社会的影響力をマスコミも認めるところまできたということであろう.

 一般雑誌である分野のキーワードがアピールされる場合,代表的でわかりやすい断面が誇張されて流通し,その裏にあるテクニカルな本質が隠ぺいされることが多い.ブログもわかりやすい断面―つまり個人が日記やメモを取る感覚でWebページが作れることやマスコミに対抗する新しいメディア勢力の台頭―が評価されているようである.技術的に見ればブログを支えているのはCMS(Contents Management System)の考え方であり,その可能性はブログに限ったわけではない.ブログの先に何があるのだろうか.

ブログはWWWの原点回帰

 1990年頃,Mosaicの出現で一気にブレークしたWWWだが,Mosaic的わかりやすさがその後のWWW文化に与えた影響も大きかった.もともとWWWのコンセプトはネットワーク上のオンライン文書管理アーキテクチャとして考えられたものといわれているのだが,ブラウザの高機能化によってビジュアル面が強烈にアピールされることとなり,現在のデザイン主導,娯楽指向のWWW文化につながることとなったわけである.

 その流れに反して,ブログは一般にデザインが画一的で,更新頻度やトラックバックによる相互参照に支えられたテキスト主体のコンテンツが基本になっている.したがって,外見的アピールは大きくない.それでもマスコミに対峙するメディア勢力とまで語られるようになったわけである.

 WWWの黎明期に言われた,「だれでも情報発信」という夢がブログによってやっと現実のものとなったという見方もできる.あれだけ簡単だといわれた従来型のWebページ作成は,メディア機能としては一人で作る「かわら版」程度のものといえる.それに対して,いったん立ち上げたCMSベースのブログは,機能としてはIT化の進んだタウン誌編集部くらいに相当すると思う.もちろん,編集部があるから自動的に売れる雑誌が作れるわけでないことは明らかで,その機能を必要とする人が使って始めて役に立つということはWWWが動き出して以来,まったく変わっていない.

データベースがCMSのエッセンス

 CMSはコンテンツ入稿機能,データベース管理機能,表現の自動生成機能を(コンテンツの変換)の連携で実現される.Webページを作りたい個人が書いたテキストを入稿して,生成する表現形式を公開型のWebページとしたのがブログである.ネットワーク・サービスを一段上位のクラスから再整理したのがCMSである,というのがわかりやすい説明であろうか.だからCMSは掲示板やグループウェアの基本ツールとしても使えることになる.

 冷静に考えれば,世の中のネットワーク・サービスはだれかが情報を入れて,それを編集し,何かで表示するという構造で成り立っているわけだから,入稿の自動化や表示形態の自動生成は必然的なことで,それほど凄いことではないという見方もある.

 HTMLにはテキスト入稿のためのFORMタグが当初から定義されているし,XML+CSSの構造はコンテンツ記述と表示形式を分離しているわけである.CMSが強力であるとすれば,その本質は表面的には見えないデータベース管理機能ということになる.

 コンテンツを構造化されたデータベースで管理する過程でWebページはメタインデックスという新しい意味空間への道を開いたといえる.

その先にあるセマンティック・ウェブ

 ブログが活発になってよく見かけるようになったのがRSSアイコンである.

 CMSでは人間向けのHTMLコンテンツを生成するだけでなく,データベースからRDF形式のメタインデックス情報,いわゆるRSS(RDF Site Summary)を生成できる.RSSが公開されることによって,そのサイトにどんな情報が含まれるかをコンピュータが理解できるようになり,WWW上に点として存在していた知識が意味のネットワークでつながる世界が実現できる―それがセマンティック・ウェブと称される概念である.筆者は,CMSの情報管理が人間だけでなく機械に対するWWWサービスを可能にしたということにブレーク・スルーを感じるのである.

 一見すばらしい世界のように見えるセマンティック・ウェブであるが,RSSに書かれているメタインデックス情報はもともと人間が入れた情報の反映なのである.当然ながらコンピュータは内容のレベルでの真偽は理解しない.セマンティック・ウェブの実力はWWWの情報の質に影響されることになるのだが,今のブログ・ブームはまだコンテンツの質とは違う段階にあるようである.

やまもと・つよし

北海道大学大学院情報科学研究科

メディアネットワーク専攻

情報メディア学講座


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第10回 続・C99規格についての説明と検証
第9回 C99規格についての説明と検証
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