第23回 ITなギズモ
Gismo - ギズモという単語がある.映画ファンには,映画「グレムリン」に出てくる怪しげな生き物の名前としておなじみだと思う.辞書で調べると小細工とかからくり物とあり,要するに怪しい仕掛け物を意味する言葉である.
筆者は,仕事のついでということもあり,頻繁に学会の展示会や量販店のマルチメディアコーナーなどを立ち見するのだが,つい衝動買いをしてしまいそうになる怪しげなIT商品を発見して妙に感動を覚えることがある.
怪しげといっては開発者に失礼なのだが,ここでの「怪しげ」という語感は,「よくもこんなものを考えたなぁ」という誉め言葉として使っていると理解してほしい.
もっとも,ただ不気味というだけでは面白くない.その仕掛けにエンジニアを唸らせるひねりが利いていなければギズモとはいえない.今回は,筆者が最近見つけた優れもののITギズモを紹介しよう.
6Gバイトのハードディスクを内蔵したMP3プレーヤ
最近は,メモリカードで音楽を記録する方式のMP3プレーヤが,ポータブルプレーヤの一分野を築いている.量販店のMP3コーナーにはそのようなプレーヤがたくさん展示されている.そんなプレーヤを一つ欲しいと思って眺めていたら,他とは一線を画すスペックのプレーヤを見つけて衝動買いをしてしまった.
商品名をNomad Jukebox(http://www.nomadworld.com/welcome.asp)という,6Gバイトのハードディスクを内蔵し,アルバム換算で150枚ものCDを記録できるMP3プレーヤである.外見はポータブルCDプレーヤに見えるのだが,中にあるのはCDドライブではなく2.5インチのハードディスクである.もちろん,ポータブルなので電池で動く.6Gバイトもあるわけだから,1曲4Mバイトと仮定しても1500曲収録できることになる.残念ながら,我が家にはそんなにたくさんのCDがないのが悲しい.
このプレーヤ,基本的な機能だけでも十分なギズモであるが,使ってみるともっと深いところでギズモ的な動作をしてくれる.電源を投入すると,まるでUNIXが立ち上がるかのような動作をするのである.たかがMP3プレーヤなのに,電源を投入してから音楽が再生されるまで実測で20秒もかかる.
電源オフのときには液晶画面に「Shutting Down...」と表示され,しばらくディスクが回ってから停止する.このあたりは,まるでUNIXのブートとシャットダウンそのものである.OSは組み込み用Linuxなのではないかと匂わせるマニアックさがギズモ的である.
3次元カラープリンタ
これをギズモといっては開発者に怒られそうだが,出力される物体の怪しさとメカニズムのユニークさで感動した.米国のZ Corporation(http://www.zcorp.com/)が開発している3次元カラープリンタである.3次元プリンタという名称がその機能を物語っている.これまでも3次元形状を自動作成する機器はあった.
たとえば,光硬化樹脂を使った成形システムやコンピュータ制御の切削加工機などがある.しかし,この3次元プリンタは,メカもただのプリンタであり,それもチープなインクジェットプリンタそのものであるところがギズモ的である.原理は意外と簡単で,箱の中に粉体を詰めてその表面を平らに慣らしておき,そこにインクジェットプリンタと同様のメカニズムで液体糊を3次元形状の断面に吹き付けて固めるのである.
その後,箱を1段下げてその上に粉体を敷き詰め,また表面をならして次の断面を固めるという動作を反復するのである.これを繰り返して,糊が乾燥したら粉の箱の中から3次元形状を取り出して余計な粉を取り除けばできあがりである.それならば光硬化樹脂による成形と同じだと思うかもしれないが,これがギズモである所以はこれがカラーであるということと,作る形状に位相的な制約が少ないということがある.
結論からいえば,どんな形でも内部まで色付きで作ってしまう.粉が澱粉だという点もおもしろい.糊を有機性にすれば自然に腐ってくれるので,環境にもやさしい.
こういった商品の紹介はまだまだほかにも続けられるのだが,こんな話を始めたのには理由がある.ギズモという単語の語感には,原理的に画期的な発明というよりは,組み合わせがよくできたものという感じがある.かつて,日本の電気製品が世界中で受け入れられたのは,このギズモ的センスだったのではないだろうか.トランジスタラジオしかり,ラジカセしかり,液晶電卓しかりである.
原理的発明は欧米でなされたのだろうが,それを取り入れて物欲を刺激する形に仕上げるところに電子立国日本の強みがあったのだと思う.最近,そんなあっと思わせてくれるメイドインジャパン製品が少なくなったような気がする.今回紹介した商品もシンガポール製であり,米国製である.
日本でそういったギズモを作ることは,いまでも何の問題もない.問題は製造技術ではなく,ギズモを考えるセンスとそれを具体化するしくみである.ギズモは決して世界標準をめざさない.だから先進国となった日本では軽く見られるのだろうか.
しかし,世界標準は結果であってねらって取るものではない.IT不況の今だから,日本発のITギズモで世界の物欲を刺激してやろうではないか.
やまもと・つよし 北海道大学大学院工学研究科
電子情報工学専攻
計算機情報通信工学講座 超集積計算システム工学分野
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