第52回 GPS+LBS(Location Based Service)がおもしろい
日本では普通に見られるのに,欧米ではめったにお目にかからないIT機器といえば,カーナビである.JEITAのWebページによれば,2005年におけるカーナビの総出荷台数は約387万台だそうで,軽自動車を除いた乗用車の販売台数391万台とほぼ等しい.つまり,いまやカーナビは新車には装備されていて当たり前になっているのである.家電機器の市場規模と比べてもカーナビを上回るのはテレビやDVDレコーダといった王様級の家電だけであり,カーナビの単価が10万円以上であることを考えれば相当に大きな市場を構成しているといえる.
カーナビの要素技術は測位技術と電子地図であり,そのルーツは米国起源の軍事技術にたどりつく.それを完全な民生商品としてここまで成長させたノウハウは日本の知恵であり,自慢してよいものだろう.これをカーナビだけにとどめておくのはもったいない.
ハンドヘルドGPSのたのしみ
GPSというと日本ではカーナビということになるのだが,米国ではハンドヘルド型が主流であり,トレッキングなどで使うアウトドア商品の扱いをされている.価格も$100ぐらいからある.$100だから精度が低いということではなく,むしろ米国ではWAAS(Wide Area Augmentation System)など衛星ベースの補正信号サービスがあるため,実は日本のカーナビよりも精度が高い.筆者も$100台のGPSを何台か持っているのだが,最近は外国出張に行くときにかならず持っていくものの一つになっている.さすがに安物のGPSには地図などはなく,現在位置座標とランドマークを設定できる程度の機能しかないのだが,これでできる座標ベースのサービス,業界用語でいうところのLBSLocation Based Serviceもある.さて,この安物GPSで何ができるだろうか.
今年の3月にイタリアのピサで学会があったのだが,最終日の空き時間にどこかに遊びに行こうということになった.ダ・ヴィンチ・コードの刷り込みもあって,ピサの近くにあるダビンチの生地,ビンチ村に行ってみることになったのだが,そこに行くための情報がない.駅で地図を買ってビンチ村を探したところ,ピサから東に40kmくらいの場所にあるらしいということはわかり,そこへ行こうということになった.
そこで筆者は,まずGoogle Earthで目的地のビンチ村の緯度経度を読み取り,それをGPSにセットした.Google Earthは地図と衛星写真がオーバレイされているので,ランドマークを簡単に見つけることができる.そして,その座標も正確に読み取れる.それをGPSに入力してからいざ出陣ということになる.ただそれだけなのだが,知らない外国の町でタクシーに乗っていても,目的地に近づいていることがわかるのは実に安心なのである.同じように,ホテルから街に遊びに出ても,ホテルの座標をマークしておけば道に迷うこともないし,あと何メートルあるのかがわかるので歩いて帰る気になってタクシー代が節約できるという経済効果も出てくるのだ.まさにLBSの面目躍如といったところである.
ディジタル・カメラとGPSの連携
GPS遊びをしていて,何かおもしろいサービスができないかと考えていたとき,別の使い方を思いついた.ディジタル・カメラとGPSの連携である.もちろん世の中にはGPS機能付きのデジカメがあるのだが,たかが遊びにそんな高価な専用機を買うというのは非現実的である.
そこで考えたのだが,GPSはGPS,カメラはカメラで独立して使って,写真の撮影位置を記録するといううまい手がある.デジカメで取ったJPEGファイルには撮影時間がExif情報として記録されている.GPSはGPSでトリップ・ログとして,ある時刻にどこにいたかの情報が残っていて,ダウンロードできるようになっている.つまり,何百枚の写真があっても,それとGPSのログとを照らし合わせれば,時刻の一致点を探すことでその写真が撮られた座標がある程度の精度でわかることになる.撮影時にはただ写真を撮っているだけなのに,後から座標が付けられるということである.座標が付くということは,ちょっとがんばればGoogle Map APIで地図上に写真表示することもできるということになる.
一方,日本でハンドヘルドGPSというと携帯電話ということになる.筆者も機種更新の時期だったので先月GPS内蔵携帯電話に換えて遊んでみた.携帯電話ならJavaなどのプログラミングが可能なのだが,実際には位置情報を自動的に読み取るアプリケーションはプライバシ保護のために一般利用者が使うことは想定されていないらしい.しかし,サーバ相手に位置情報を送ることぐらいはできるということで,そんな機能を使ったゴルフ向けアプリケーションを作ってみた.ショットの位置を順に記録していけば,ドライバの距離をディジタル測定することもできるし,スコアも自動記録できることになる.そのためのプログラミングは実に単純なものだった.
インドアGPSができないか
GPSを実際に使っているとわかることなのだが,空が見えないところではGPSは無力なのである.都市生活者はほとんど屋内に居るので,測位できるのは外に出た一瞬だけということになってしまう.GPS側にも擬似衛星などのインドア向け,都市部向けの補完技術はあるのだが,使っている電波が1.5GHz帯であり浸透力は期待できない.携帯電話など浸透力の強いワイヤレス・サービスに測位に必要な情報を乗せることができれば,GPSやLBSの市場は飛躍的に拡大すると思うのだが….
やまもと・つよし
北海道大学大学院情報科学研究科
メディアネットワーク専攻
情報メディア学講座
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