インドに仕事の一部を流すのは新しい試みではなく,シリコンバレーでは以前からもあった.シリコンバレーにはインド出身のエンジニアや経営者,そして投資家も多いことから,すでにコネクションはあった.それをうまく利用しようということだ.インドには優秀な技術者が多く,Indian Institute of Technology (IIT)といった世界的に有名な工学専門の大学もある.またインドにはプライベートなお金が集まりやすく,ベンチャーキャピタル的な投資も行いやすい環境がある.その一方で中国は比較的に投資が難しいとされている.
そしてインドは知的所有権を尊重する傾向が強いので,中国のように法的な心配が少ないという点がメリットとされている.ただ,高速道路などの交通面や,ビルなどのインフラ面では中国が整っていて,インドは遅れているとされる.
シリコンバレー企業がインドの技術力を活用するケースにはいくつかのパターンがある.まずは,インドに拠点や支社を設けて共同で仕事を進めるケース.他のケースでは,インドのアウトソース専門の会社に発注するというパターンだ.いずれも優秀な技術者がシリコンバレーの10分の1近くのコストで雇えるうえに,英語が通じるという点で大いに魅力があるようだ.
また,時差のつごうでアメリカが夜のときインドは昼なので,アメリカのエンジニア達が寝ている間にインドのエンジニア達が仕事が進め,翌日にバトンタッチできるという,“follow the sun”――「太陽を追う」開発スタイルが一時期流行りとなった.実際のところ,うまくコミュニケーションを取ったり,役割分担を決めたりしなければうまくいかないため,仕事管理のオーバヘッドが大きくなるのが現状だ.しかし,うまく回り始めるとそれなりの成果が出るのは確かなようだ.筆者の知っている会社では,回路設計をアメリカで行い,検証やレグレッションをインドで担当している.検証用のシミュレーションスイートやレグレッションのファイルを用意するのは人海戦術的で人手がかかるので,インドで行っているそうだ.また,実際の企画とスペックだけシリコンバレーで行い,実際のコーディング関係はすべてインドというスタイルもある.いずれのケースも仕様書をしっかり書いてプロジェクト管理をしっかり行っているのでうまくいっているようだ.
インドに支社や自分たちの拠点を設けていない場合は,アウトソースを利用する.このようなところは会社化されているところもあれば個人のようなところもある.いずれもシリコンバレーで仕事をしていたエンジニア達が間に入ってプロジェクト管理や仲介の作業を行うそうだ.最近のところでは,新しいベンチャーでもインドに対する考えを明確にビジネスプランで示さなければならないそうだ.インドや中国に安価なエンジニアリング資源があるわけだから,それをどれだけ新しいベンチャーが活用しているか,投資家達も知りたいわけだ.
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