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2008年5月号特集:アナログ回路で感動したことや,アナログ回路エンジニアになる近道を教えて!

2008年5月号の特集記事は「アナログ回路 Q&A」でした.そこで筆者のみなさんに,こんな質問をしてみました.

身近なものの中で活躍するアナログ回路,その感動ポイントを教えて!

薄さ9.9mmの携帯電話機の電磁干渉防止

写真は,昨年の暮れに買い換えた私の携帯電話機(W55T,東芝製)です.行きつけのショット・バーにいた某A新聞社の方に「あっ,それ何にも(機能が)入ってないやつでしょ?」と言われ,ガッカリした思い出があります.

技術者ではない方にとっては,この凄さが理解できないのだろうなぁと思いました.おそらく,そのA新聞社の方は,この携帯電話機にワンセグ受信機能や電子マネー機能が入っていない点を指摘したのだと思います.

しかし,この携帯電話機には,一般的な携帯電話機能に加え,音楽再生はもちろんのこと,2.0メガ・ピクセルのカメラ機能(カメラのCMOS/CCDイメージ・センサの信号処理を行なっているのはアナログ回路)が内蔵されているのです.内蔵のリチウムイオン電池の厚みを考えると,この薄さ9.9mmを実現するためには相当な技術と努力を要したはずです.

この携帯電話機で,私が特に関心するのは,高度な電磁干渉防止に関する技術です.最近の携帯電話機の中には,音楽再生や動画再生,SDメモリのマネージメントなど行なうための高性能なアプリケーション・プロセッサ(CPU)と通信機能を担っている高周波回路が同居しています.CPUと高周波回路との電磁干渉を考えると,このスペースにすべてを収めこんだ技術は素晴らしいものです.

最近の携帯電話は多機能化が進んだため,皆さんディジタル技術にばかり目が行きがちです.しかし,ディジタルとアナログ(アンテナから電波を送受信するのはアナログ技術です)を混在させるには高度なアナログ技術が要求されます.

<川田 章弘>

スイッチング・レギュレータやACアダプタの小形化

近年のスイッチング・レギュレータやACアダプタの大きさ(小ささ)には驚かされます.大きな出力電力でも極小さな回路で実現しています.これは,変換効率が上がったためで,一昔前なら効率80%を超えれば良い方だったのに,今や95%を超えるものも珍しくありません.高効率化にはFETを使った同期整流方式の採用が最も貢献しています.

あまり変化がなさそうな電源回路も年々進歩しています.

<藤田 昇>

携帯電話の変復調技術

ユビキタス時代とやらで移動無線通信が花盛りです.携帯電話の数百kbpsから無線LANの数百Mbpsまでと驚くほど高速です.使用できる周波数帯域が広がったわけではないのに高速化を実現できたのは変復調技術が進歩したためです.

変復調回路はアナログ技術のかたまりだといわれますが,最近はディジタル回路と複雑なプロトコル(通信規約)を組み合わせることによって,周波数効率のよい通信システムを実現しています.

<藤田 昇>

DVDの信号を読み取る技術

DVDのデジタル信号を読み取るのはレーザ・ダイオードの単波長の光ですが,光ノイズ除去の為に高周波を重畳します.高周波重畳発振回路の負荷がレーザーダイオードで,回路とダイオードのマッチングが効率と高周波ノイズ低減の決め手です.

<長田 久>

新世代PFC(力率改善回路)

力率改善回路は大型テレビや蛍光灯の電子安定器などのAC電源入力直後に位置し,電圧と電流の関係を純抵抗負荷に近づけます.ピーク電流を抑え発電・送電設備の負担を軽減します.

初期のものも感動的なアイデアですが,乗算器という難しい回路が必要でした.最近のものは乗算器無しにPWM変調の基準波形の傾きを変えるという,いかにもアナログ的で巧妙な手法で乗算を実現しています.

止まらない環境破壊と燃料や食料の問題に対し,消費を最高の美徳とした製品開発は無力ではないかと.“ICは喰えない”と,ついこの間までそう思っていました.
しかし,エネルギーは人類の生存には必要不可欠,電源・パワー関係には希望がある,そんな気がしてきました.

<玉川 一男>

アナログ回路エンジニアになるための近道を教えて!

他の人が設計した回路図と製品をよく観察する

なぜこういう回路にしたのか,なぜこの部品を選んだのか,なぜこういう実装方法なのかを考えることによって技術力がアップします.もし,理解できないところがあれば技術不足の証拠なので,重点的に勉強しましょう.

回路図を見ただけで,私だったらこうするのにと思えるようになればあなたは上級者です.

<藤田 昇>

アナログ回路は必ず理論どおりに動く

アナログ回路は電気の動き(電荷の流れ)が直感的に見える回路です.まずは,基本的な法則を理解しておきましょう.でも,たくさんの法則があるので最初からすべてを理解するのは困難です.そのため,分野ごとに覚えていくことになります.

極端な話ですが,低周波回路ならオームの法則とその応用さえ知っていればほとんどの回路を理解できます.

<藤田 昇>

技術の習得には実践のトレーニングが必要

座学だけでは不足です.かつては“ラヂオ少年”という文化があり,この道に進む者の多くが若年の内から遊びを通じて基礎を学ぶ機会を得ました.

実務を離れたところでもトレーニングの場を持つこと,できればアマチュア無線やオーディオのような趣味としてしまうことが一番だと思います.

<玉川 一男>

先人に学ぶ

社内に設計失敗集なんてものがあればそれを熟読しましょう.国立国会図書館の会員登録をしましょう.

<長田 久>

座学と実験をバランスよく

「幾何学に王道なし」というユークリッドの言葉を引用するまでもなく,これといった近道はないと思います.しいて言うなら,座学と実験でバランスよく学ぶことです.効率よく学ぶには,自宅でも本を読み,その内容を会社で実験によって確かめるようにすれば効率的です.

会社は学校ではないため,たとえOJTで与えられた課題であっても,「実験結果」を求められます.テストだけができる優等生では駄目です.数式による回路解析やシミュレーション結果を見せても,必ず「実験と一致したのか?」と尋ねられます.

仮説を立てるには,座学による知識が必要ですし,仮説を検証するには実験が必要です.そして実験結果を分析するには洞察力が必要です.アナログ回路が扱っているのは自然界の物理現象ですから,アナログ回路技術者には科学的なアプローチをする力が求められます.

●オススメの本
本を選ぶときは,職場の先輩に「どういった本で勉強してきたのですか?」と聞いてみることをお勧めします.

以下に,私の本棚の中からお勧めできるものを一部だけですが紹介します.なお,これらは私が経験してきた技術分野に限られていることをお断りしておきます.

▲アナログ回路一般
  • 長谷川 弘;知ると知らないとでは大違い アナ・デジ混在回路設計の勘どころ,日刊工業新聞社
  • 馬場清太郎;トランジスタ技術SPECIAL増刊 OPアンプによる実用回路設計,CQ出版
  • 遠坂俊昭;計測のためのアナログ回路設計,CQ出版
  • 遠坂俊昭;計測のためのフィルタ回路設計,CQ出版
  • 水野博之監修;アナログ信号処理技術,日経BP社(絶版)
▲アナログ集積回路
  • Paul R. Gray,Stephen H. Lewis,Paul J. Hurst,Robert G. Meyer,浅田邦博,永田穣監訳;システムLSIのためのアナログ集積回路設計技術[原書第4版](上,下),培風館
  • Behzad Razavi,黒田忠広監訳;アナログCMOS集積回路の設計(基礎編,応用編),丸善
▲高周波回路
  • 吉田 武:改訂 高周波回路設計ノウハウ,CQ出版(絶版)
  • 広畑 敦;高周波技術センスアップ101,CQ出版
  • Behzad Razavi,黒田忠広監訳;RFマイクロエレクトロニクス,丸善
  • Guillermo Gonzalez;Microwave Transistor Amplifiers: Analysis and Design,Prentice Hall
  • 森 栄二;マイクロウェーブ技術入門講座[基礎編],CQ出版
  • 石井 聡;無線通信とディジタル変復調技術,CQ出版
▲PLL回路
  • Floyd M. Gardner;Phaselock Techniques,John Wiley & Sons, Inc.
  • Ulrich L. Rohde;Microwave and Wireless Synthesizers: Theory and Design,John Wiley & Sons, Inc.
▲高速ロジック回路
  • トランジスタ技術SPECIAL No.22 ディジタル回路ノイズ対策技術のすべて,CQ出版(絶版)
  • 碓井有三;ボード設計者のための分布定数回路のすべて,自費出版(http://home.wondernet.ne.jp/~usuiy/book/book.htm)
  • Howard Johnson,Martin Graham;High-Speed Digital Design: A Handbook of Black Magic,Prentice Hall
  • Howard Johnson,Martin Graham;High Speed Signal Propagation: Advanced Black Magic,Prentice Hall-邦訳,須藤俊夫;高速信号ボードの設計(基礎編,応用編),丸善
  • William J. Dally,John W. Poulton,黒田忠広監訳;デジタルシステム工学(基礎編,応用編),丸善
▲EMI/EMC技術
  • Mark I. Montrose,出口博一,田上雅照共訳;プリント回路のEMC設計,オーム社
  • Michel Mardiguian,小林岳彦訳,羽鳥光俊監訳;EMC設計の実際―放射妨害波の制御,丸善
▲計測技術
  • 我孫子健一:わかる電子計測技術,CQ出版(絶版)
<川田 章弘>

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