Lee氏の問題が本当にスパイ問題であるかどうかよりも,アジア系エンジニアが何らかのターゲットになっている状況について,皆が気にしている.パラノイア(Paranoia)をまた招くのではないかと多くのアジア系エンジニアが心配している.
中国人エンジニア = アジア系エンジニア = スパイ
といった構図がパラノイアによって煽られるからだ.英国などのNATO諸国も,最近外国人エンジニアに対して警戒しはじめている.
一般住民で,シリコンバレーにも関係のないアメリカ市民が,技術もわからないし,外国人エンジニアの位置付けを理解できないまま,“アジア系エンジニアはアメリカに入れてはならない”といった極端な運動に走るのではないかと心配する声もある.こういうパラノイアがあると,アメリカ入国に規制が付くとか,プロジェクトの内容を制限されるとか,さまざまな障害を招きかねない.実際,米国議会や英国で,外国人エンジニアの起用は「事実上,技術の輸出」とみなすべきであり,輸出規制の対象とすべきであるといった提案がなされている.
シリコンバレーは,もともと政治色が薄いか,政治に興味が低い,ビジネスとエンジニア中心の町である.だから,“知識や技能のあるエンジニアなら誰でも歓迎,政治の難しい話で商売と技術の交流の邪魔をしないでくれ! 政治家は引っ込んでろ!” といった風土はたしかにある.
しかし最近では,中高年のアメリカ人エンジニア達が外国人エンジニアの採用を疑問視する動きがある.本誌1998年9月号,1999年1月号でもとりあげたH1-Bビザ発行の前提に「アメリカ国内で採用が不能な場合,外国人エンジニアを使ってよい」という法律になっているが,中高年アメリカ人エンジニアらは,外国人エンジニアのほうが安く雇えるからだと主張している.この感覚がエスカレートすると,次の構図にもなりかねない.
外国人エンジニア=スパイ,あるいは給料の低下につながる,いい職が取られる→国がなんとかしなければならない!
多くのアジア系住民は,これは前述した日本人強制収容所当時の感覚に似ているのではないかと警戒している.いくらネイティブな英語を話しても外観がアジア系というだけで,やはりまだまだ外国人扱いなのが現状だ.それに,さまざまな経済的な理由やフラストレーションが溜まるとパラノイアにつながる.
筆者の経験では,シリコンバレーはほかのアメリカの州や土地に比べると開放的で,過ごしやすい場所だ.外国人やWASP以外の人種が生活しやすい土地柄ともいえる.シリコンバレー内では,自由に情報を交換したり,エンジニアの間での健全な競争があって良いと思っている.
また,海外からのエンジニアや海外の取引先がどれだけ重要か,シリコンバレー内では皆理解しているだろうが,一歩シリコンバレーから出たアメリカでは,そういう理解は少ないように思う.
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