日本の学歴の考え方とアメリカの考え方に違いがあるので,そこから説明してみます.
エンジニアリングの仕事といってもさまざまな分野と形態があります.たとえば,純粋に基礎研究に関係する職種であれば,元のネタなどが大学からあったり,大学と共同研究しているテーマがあり,ある程度の学歴が要求される可能性が多くなります.これは,ほかの大学や企業のエンジニアと情報交換したりすることが有利とされるからでしょう.
一方,製品開発や顧客側と一緒に仕事をするエンジニアの場合は,エンジニアリング的な知識以外に,対人関係の能力があるとか,説明をしたり意志疎通の能力が高い人が好まれます.ここでは,学歴よりも実務レベルの経験が重視されるかもしれません.
中途採用が多く,即戦力で結果を求めるアメリカ企業では,候補者の学歴は大事な目安として考えられています.アメリカの大学は順位付けがしっかりされており,どの大学でどの学部が全米でどんな順位を付けられているか,第三者的(毎年数回雑誌や媒体が企業の人事担当者に聞き取り調査を行う)に調べられています.調査の内容は,なぜある大学の工学部から学生を雇ったか? それに満足しているか? といった内容だそうです.企業側に不満があるともちろん順位が落ちるわけです.
このように,大学に入る側である学生候補と,大学から採用する側にある企業から,はっきりとどの大学に力があるかわかるしくみになっています.その中でStanfordやUC Berkeley,MIT(マサチューセッツ州),Cal Tech(カルフォルニア州,ロサンゼルス)の工学部が毎年上位にランキングされるのはたしかです.また,これらの大学の工学部の課目は企業側に公開されており,企業側としても安心して質の高いエンジニアを採用できるという利点があります.結果として,上位に位置している工学部がある大学から積極的に採用をするということになります.
その一方で,即戦力や実務経験があれば学歴はまったく問わないという考え方もあります.実際,多くのスタートアップの設立者には大学を中退した人達がかなりいます.また,実務経験でそれに見合った学位を短縮して得るという制度が用意されています.どうしても企業側が学位を求めるのであれば,数年の実務経験を大学の数年分の勉強として認めて,本当に必要な単位だけで修士号や博士号を与える制度があります(たとえば,実務経験4年を大学在学1年程度に認めるとか).
一般的に,FAST TRACK PROGRAMと呼ばれ,通常2年かかる博士号を2学期ぐらいの単位に短縮する場合があります.場合によっては,夜間コースや個別論文で済ませることもあり,働きながら学位が取れるという制度になっています.大学側と個人の個別相談によりますが,まったく学位のない人でもさまざまな方法で学位を得ることが可能です.
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