第40回
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〜 Part 4 〜
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いままで,読者の皆さんからいただいてきたさまざまなメールの中から,よく出た質問を元にしてFAQ(Frequently Asked Questions)を作りました.前回にひき続き,今回もFAQ形式で,シリコンバレーの生活に関する質問を集めてみました.
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みんな社宅やアパートでなく持ち家なのですか?
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アメリカには社宅制度がほとんどありません.持ち家についてはアメリカ独特の特徴がいくつかあります.
1)節税対策としての自宅
持ち家ですが,アメリカでは住宅ローンの利子を納税申告の際に控除枠として利用でき,節税対策としてもっとも利用しやすいので,家をもちたがる傾向があります.
2)中古住宅
一方,アメリカの住宅はほとんどが中古住宅市場です.築30〜40年ぐらいがシリコンバレーでは平均的です.アメリカでは家族構成に合わせて何度も引っ越すのが当たり前です. 典型的なシナリオは,若い夫婦か独身の頃から家を買い,まずは節税対策に利用します.この場合は安くて値上がりが見込める物件をねらいます.その後,子供の成長に応じて大き目の家に引っ越します.これも数回行うのが典型的な例です.子供が大きくなるまで,10回以上引っ越すところはあたりまえです.引っ越しは専門業者を使う場合もあれば,安くあげるために引っ越し用トラックや器材をレンタルしてくれる業者を利用する場合もあります.
3)学区
アメリカは,市町村レベルで学区の予算を地元で決めます.また,アメリカの学区はアメリカの大学と同じようにランク付けされています.子供一人あたりに使われる予算や,有名大学に入れた子供の数などの統計を総合的に見たランキングが公表されています.教育熱心なシリコンバレーの親達は,何とかして子供を良い学校に入れようと,良い地区に住もうとします.学区間にはかなり差が出るので,人気のある学区に建っていることでその住宅の価格が高騰します.アメリカの住宅選びはまず学区だといっても過言ではないでしょう.
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シリコンバレーの治安について教えてください
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一般的に,日本ではアメリカはとても治安が悪いというイメージがあるかもしれませんが,少し誤解があると思います.まず一口にアメリカといっても東部の都市と西海岸の都市では雰囲気や治安に大きな差があります.シリコンバレーも現在では北はRichmond,南はScotts Valleyというように,かなりの範囲を含みます.全般的にいえるのは,ほかのアメリカの著名都市,ニューヨークやシカゴ,ロサンゼルスに比べると犯罪件数ははるかに少なく,安全で住みやすい町だということです.また,犯罪があったとしても空き巣とか車泥棒とかで,凶悪犯罪を地元のニュースとして聞くことはあまりありません.銃器を使った犯罪事件の発生率も,アメリカの他の大都市に比べて圧倒的に低くなっています.
ちなみに,住宅選びの際にアメリカの不動産屋は学区のデータとともにその町の治安データを顧客に見せてくれます.これは各市町の警察で集めたデータを市民に公開しているわけです.
この数年で発生した筆者の印象に残っているシリコンバレーの犯罪ですが,次のような事件を覚えています.男性エンジニアがストーカーになって同じ会社の同僚(女性エンジニア)を付け回し,その後,この男性は仕事のアウトプットが良くないことを理由に解雇されます.彼は職場を離れた後もストーカー活動をやめず,ついに元職場に拳銃で乗り込み,乱射事件になりました.元上司と近くに居合わせていた社員1名が死亡し,ほかに怪我人が数名出ました.その他には,深夜に帰宅中のレストランオーナーが,シリコンバレーの南に位置するSanta Cruz Mountainの山道の高速道路(Freeway)で,同じく帰宅中のソフトウェアエンジニアとそれぞれの車の運転の仕方が原因で口論になり,エンジニアが車内にもっていた拳銃でレストランオーナーを射殺してしまうというニュースがありました.
これらは,まれな凶悪犯罪の例だと思います.もっとも,シリコンバレーのエンジニアやエンジニアリングに関係する犯罪の多くは,やはりホワイトカラー系の犯罪でしょう.
また,数年前に,システムの組み立てを専門に行う工場が夜間に強盗に押し入られ,IntelのPentiumと組み立て終わったボードが大量に盗まれるというニュースもありました.
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みんな共稼ぎなのですか? 夫婦でそんなに働いていて,出生率は下がっていないのですか?
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シリコンバレーだけでなく,アメリカでは共働きが日本に比べるとはるかに多いのですが,子供が産まれたら会社を数年休み,また仕事をするという道があるので,日本ほど急激に出生率は下がっていないと思います.直感的にいって,日本と比べるとアメリカのほうが,一般的に女性エンジニアや女性職員が仕事をしやすい環境であるということも理由の一つだと思います.
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赤ちゃんをオフィスに連れて来るって本当ですか?
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本当です.筆者の勤めたある会社では,新しいお母さんのためのベビールームを設けていました.もっとも,小さ目の会議室(窓なし)にソファやベビーベッドを入れてあるだけだったそうですが.nanny(子守り)を連れて出社する副社長(女性)もいました.
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そんなに仕事をして,どうやって恋人を探すのですか?
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いくら女性エンジニアの数が増えたといっても,まだまだ男性中心の業界だからでしょうか? 男性エンジニアにとっては本当に深刻な問題だそうです.全米の男女の比率は3:4だそうですが,シリコンバレーを含むSan Francisco Bay Area全体では,男女の比率がなんと5:3で,男性の比率が増える状況にあるそうです.実際,どんなに高給取りで成功しているエンジニアでも,それだけではなかなか結婚できないことが多いそうです.
シリコンバレーの新聞であるSan Jose Mercury Newsにも日本のお見合いサービスに似た会社が広告をたくさん出しています.アメリカなりの特徴があり,ランチに女性3名,男性3名をセットしてくれるサービス,また濁流下りやカヌー,マウンテンバイクのツアーといったスポーツイベントを中心に企画したパーティを専門(アメリカ版ネルトンパーティ?)にやっているところなどが人気だそうです.
また,元エンジニアやエグゼクティブのヘッドハンティング(人材あっせん業)をしていたコンサルタントが,人脈を利用してお見合いサービス業に転身するというパターンが増えているそうです.さらに,インターネットを利用した出会いサービスも人気があるようです.変わったところでは,男性エンジニアにデートのテクニックをコーチしてくれるコンサルタント(元心理学者,女性)がいるらしく,話題になりました.
一方,女性エンジニアの言い分は,というと――たしかに男性からのアプローチはたくさんあるけれど,なかなか思いどおりの人に出会えない……という話をよく聞きます.男女それぞれ,まずエンジニアリングやシリコンバレーの仕事と「結婚」している人が多いからでしょうか?
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エンジニアの給料は事務職に比べて高いのでしょうか?
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日本と比較してエンジニアと事務職という分け方をしていない会社が多数を占めます.一般的にいうと,エンジニアのほうが高いと思いますが,例外がいくつかあります.事務職でもマーケティングだとMBAをもっている人が必要なので,エンジニアより給料が高い場合があります.また,シリコンバレーの法務部は弁護士で構成されるので,エンジニアより給料が高いこともあります.営業職で,歩合給を含むと社長より報酬の高い従業員が存在することもあります.
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シリコンバレーは日本と比べて食費や住宅費はかなり安いと思うのですが,エンジニア達はお金を何に使っているのでしょうか?
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アメリカ人は,一般的に個人の所得やお金の使い方について話したりすることがありません.ただ言えることは,アメリカ人は貯金して現金でものを買うということが日本人と比べて低いということです.ですから,車もローンで購入する場合がほとんどです.さまざまなローンを抱えている人がたくさんいます.学生時代からのStudent Loanをまだ払っているエンジニアもたくさんいます.次に,自宅で知り合いや家族をもてなすという風習が根強いアメリカでは,自宅の内装や設備にこだわる人も多いようです.家族や知り合いが集まって会食できるように,食器や椅子とかさまざまな設備から小物にいたるまで用意したいというのが典型的なアメリカ人です.たとえ独身の男性エンジニアでも,毎年1月末に行われるスーパーボウルは知り合いを招いて騒ぎながら見たいので,超大型テレビを買うとかテレビ用の音響システムをアップグレードするといった出費がかなりあるかもしれません.
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データで見るアメリカの人種変化
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2000年はアメリカの国勢調査の年でした.戸籍制度がないアメリカでは10年に一度,アメリカに住むすべての住民(国籍の有無に関わらず)を統計データに入れるため,大がかりな調査を行います.中間報告によると,カリフォルニア州では1999年に白人が49.9%になり,白人以外の人種が50.1%と多数派になったそうです.白人以外の人種というのは,南米を中心とするヒスパニック系,アジア系,黒人などです.この白人以外の人種の中でヒスパニック系が1990年の26%から1999年の31%となり,同じ時期にアジア系が10%から12%に増加しています.カリフォルニア州全体の人口は,1990年の2,990万人から1999年には3,300万人になっています.この報告では,明らかにカリフォルニア州が南米やアジアからの移民の最終目的地となっているとされ,今後もこれらの国々からの移民の増加が予想されるとしています.
シリコンバレー近辺で見ると,もっとも中核のサンタ・クララ郡の統計が,1970年には人口の82%だった白人系が1998年には49%に減少し,ヒスパニック系が25%,アジア系が23%に増加したと報告されています.すぐ近くのSan Francisco市内は「アメリカでもっともアジアな町」というニックネームがふさわしく,アジア系が37%,白人系が37%,ヒスパニック系が16%,黒人が10%となっており,アジア系住民が白人住民と同じ割合という構成になっています.
シリコンバレーではアジアや他の国々からエンジニアやプログラマなどを積極的に雇用しているため,今後もこの「白人以外」の人口が増えるのはまちがいないとされています. 今後,これらの住民達が生活基盤や政治的にどういう力や意味をもつのか?たとえば,サンフランシスコ市内やシリコンバレーのクパチーノ市の多くの公立小学校では,中国語と英語の両方での教育(バイリンガル教育)が実施されています.これらは,アメリカが新しい境地に入る可能性を秘めているといえ,関心を集めているようです.
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copyright 1997-2001 H. Tony Chin
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