テロ後の臨時追加予算などで,合計約800億ドルの予算がアメリカ国防総省(ペンタゴン)につけられた.具体的な使い道は徐々に明るみに出てくるが,1月号のこのコラムでも紹介したように,空港警備関係の機器以外も,一気に議会を通過してしまいそうな勢いだ.
テロ関係でもっとも目立つのが,空港安全対策への使い道だろうか? 警備の人員増強のほか,機器の購入も多い.たとえば,InVisionというシリコンバレーの会社は,CTスキャンの技術を応用した荷物検査装置を供給している.テロ前はおもにイスラエルやヨーロッパ諸国がおもな顧客だったそうだ.現在では製造が受注に追いつかないという話だが,シリコンバレーのことなので,別のアプローチで荷物検査装置の開発を行っている会社もあるのだろう.また,人の表情や顔の特徴を認識するソフトの試験も行われている.
空港安全対策と同じ規模の投資が諜報関係だ.とくにテロを未然に防げなかったことで,アメリカ国内の情報収集能力や解析能力が大きく問われている.日本でも話題になったエシュロンは,さまざまな通信を盗聴して自動的に複雑な解析を行う大掛かりなシステムだ.このような大規模な盗聴システムがあるにもかかわらず,連邦政府レベルで収集された情報と地元警察で収集されたデータがうまく連携できなかったことが問題視されている.
データベースのOracleやネットワーク機器メーカーのCiscoの大型顧客にアメリカ連邦政府のCIAなどがある.今後もアップグレードや新規購入,新しいシステムの開発などが見込まれている.実際にエシュロンを管理・運営している連邦政府のNSAは,アメリカ国内でもっとも大きいスパコンの顧客だといわれている.音声認識や複雑なパターン認識で集めたデータをスパコンで解析するのだという.
その他の分野では,ペンタゴンが4年に一度議会に提出するQuadrennial Defense Review Reportと呼ばれる白書がなかなか興味深い.いくつかのテクノロジ分野の重要性を指摘している.1)ナノテクノロジなどによる超ミニモバイルセンサ,2)並列・量子コンピュータによる暗号解読など,3)バイオメトリックス,4)画像処理技術.いずれもシリコンバレーに関係の深い分野だ.
軍事装備の購入過程にも変化が見られる.従来の軍事装備は特注品が多く,国産品であることが必須だったが,最近は購入してから実際に使用するまでのスピードを重視して,特注・国産にこだわらなくなったそうだ.また,逆に軍部で開発されたものを早期に民間企業に製品化させることも多くなった.これにより開発コストを分散させて早期に回収すること,さまざまな政府機関で使う仕様を統一することがねらいだそうだ.
ほかの例では,軍備の配給を効率良く行う物流システムを宅配便などをあつかう会社と共同開発している.AIのエージェント技術を使い,もっとも効率の良いルートや運送方法を見つけ出す.これは実際に旅行プランを立てるソフトに応用されており,商品化が進んでいる.
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