第44回 Looking Glassに見るデスクトップの次世代化
そろそろ次世代のPCデスクトップ・モデルが出てくる
最近,三次元デスクトップが話題になっている.まだプロトタイプの段階のものが多いのだが,PCのグラフィクス機能がここまで上がってくると,GUIが三次元になっても処理が重くなることはなく,積極的に三次元のGUIを探る動きが出てきたということである.
そういった次世代GUIの一つにサンマイクロシステムズ社のProject Looking Glassがある.
2月に米国のサンマイクロシステムズ社のキャンパスを訪問した際に,プロジェクトの提案者である川原英哉氏と会ってそのデモや思想を伺う機会がもてたのだが,これがなかなか興味深いのである.それをきっかけにしてOSやGUIがこれからどう変化していくのか考えてみた.
アラン・ケイ氏がDYNABOOKの基本コンセプトとしてデスクトップ・メタファのGUIを示したのが1977年,それからすでに四半世紀も経ったのだから,そろそろ次世代のPCデスクトップ・モデルが出てくるタイミングだと思うわけである.
意識しているのはOSかGUIか
PC利用者が,いまどんなOSを使っているかを意識するのは,デスクトップ画面を見たときやユーザ・インターフェースを使うときである.もちろんOSの根幹は記憶領域管理やプロセス管理にあるのであって,デスクトップは限りなくアプリケーションに近い層にあるユーティリティ・ソフトなのだが,一般の利用者からすれば「外見がすべて」というのが現実である.
Windowsであれ,Mac OSであれ,操作の基本構造は2次元のデスクトップ・メタファを根本的な思想として作ってあることは同じであり,優劣を比較しても結論は好き嫌いのレベルの議論に堕落してしまう.OSの根本的な部分と画面デザインが組みになってPCができているので,仮に画期的なOSのモデルができても,単純にGUIが違うという理由で受け付けられないということもあるように思う.逆にOSとGUIの分離を上手にやったのがMac OS Xということになる.Mac OS Xへの移行が受け入れられたことからも,利用者はOSの構造よりもGUIの安定性を求めていることがわかる.
さて,Looking Glassというデスクトップの役割であるが,これはOSではなくJavaプラットホームの上に作られたウィンドウ・システムという位置づけである.OSがあって,その上にJavaがあって,さらにその上にLooking Glassがある.Javaには縛られるものの,OSには依存しない独立系デスクトップということである.
2Dデスクトップ・メタファは悪くない
研究者の悪い癖に,とりあえず今の状況は悪いという設定をし,その前提で私の提案はすばらしいという論を展開することがある.二次元よりは三次元という提案も,本当に必要性があるのならば意味があるのだが,三次元でもやってみましたということでは世間は受け入れてくれない.
私も研究者のはしくれとして,現状を否定したいところなのだが,考えれば考えるほどGUIとしてのデスクトップは二次元で十分か,むしろ二次元のほうが良いように見えるのである.昔から良かったということではなく,最近のグラフィクス・ハードウェアやAPIの高性能化がGUIの反応速度を向上させた結果,とても良い水準になったということである.
もともとアプリケーションは二次元のウィンドウを前提にして書かれているわけだから,それは当然なのである.しかも私はGUIの基本はビジュアルよりも反応速度という確信を持っている古いタイプなのである.
次世代デスクトップはどこへ行く
ここ何年かでPC画面の描画速度は画期的に速くなり,実に気持ちの良い二次元デスクトップが現実となったのであり,二次元デスクトップは今が旬である.そしてグラフィクス・ハードウェアはその後も進化して処理速度が余ってしまった.さてどうしたものかということから三次元デスクトップという話は必然的に出てきたものである.
多くの三次元デスクトップはもともと二次元のウィンドウ構造を外見的に三次元に見せるという「技」を競っているようである.その結果,アプリケーションは二次元のGUIで,デスクトップだけがとりあえず三次元という中途半端なデスクトップができてしまう.これは「なんちゃって3D」のレベルであり,研究補助金のアリバイ報告書ぐらいにしか使えない.なぜデスクトップが三次元でなければならないかというアプリケーションのニーズや画期的な使い方が必要なのである.Looking Glassはウィンドウ内の描画座標モデルが三次元であるという,根っこのレベルでの革新があるから期待されるのである.
現在のウィンドウ・システムで一番有効に使われているのは,ウィンドウ間でのコピー&ペーストだと思う.二次元のウィンドウではテキストぐらいしかコピー&ペーストの対象にならないが,三次元のウィンドウでは三次元形状モデルや画像ファイルもアプリケーション間でコピーや移動ができるようになる可能性がある.そういう使い方がGUIの作法として確立したときに,初めて次世代デスクトップが意味を持ってくるのではないだろうか.
やまもと・つよし
北海道大学大学院情報科学研究科
メディアネットワーク専攻
情報メディア学講座
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