第33回
ロゼッタストーンとWWW
いつの頃からかは知らないが,最近のブラウザは基本的に多言語対応となっており,見るだけならほとんどの外国語を扱うことができる.以前はWWWをさまよっていると文字化けしたWebページに遭遇してびっくりすることがよくあったが,最近では中国語やハングルであっても文字まで正しく表示されるのが普通になっている.それはそれで素晴らしい技術革新だと思うのだが,実際のところ日本語と英語ぐらいしか理解できない平均的な利用者には,そのありがたさが伝わってこない.
まぁ,そんなものかと思っていたある日,Yahoo!のトップページを眺めていて,その末尾に各国版Yahoo!へのリンクがあることに気が付いた.試しに,中国語版Yahoo!をクリックして驚いた.なんと日本語版Yahoo!と同じようなデザインの中国語版Yahoo!のトップページが表示されるのだ.誤解を避けるためにいうと,筆者は多言語対応に驚いたのではなく,日本語版と中国語版とのデザインの類似性に驚いたのである.筆者は,とっさにロゼッタストーンを連想してしまった.
アイコンで理解する基本単語
中国語では,外来語も基本的に漢字で表記する.コンピュータなら電脳,携帯電話なら手机あるいは手機と書く.こういった基本単語の場合はだいたいわかるのだが,もう少し漠然とした概念語となるとわからない.たとえば,モバイルである.この場合,モバイルというものがあるわけではなくて,移動体通信を使った情報サービス全体を意味している.これをほかの言語ではどう表記しているのだろうか.
現在の各国版のYahoo!のトップページは,最上段に何個かアイコンが並んでいるデザインになっている.アイコンにはそれが何を意味するかの文字が付記されているから,同じデザインのアイコンに付記されている単語は基本的に同じであると考えられる.日本語版Yahoo!の携帯電話アイコンにはモバイルと注釈されているから,まず中国語系Yahoo!を調べると同じアイコンが二つ見つかった.そして,そこには漢字で以下の添え字がしてあった.
短信(中国簡体字版,cn.yahoo.com)
簡訊(台湾版,tw.yahoo.com)
なんと,大陸と台湾では言い方が違っているらしい.短信は,「手短なメール」といった意味合いなのだろう.簡訊は,「簡単に情報入手」といった雰囲気が感じられる.勢いで欧米語圏を調べてみたところ,フランス,イギリスをはじめとして多くはMobileであった.
変わったところでは,イタリア語はCellulari,ドイツ語はHandyと表記してあり,多少の自己主張をしているようである.
このように,トップページから読み取れる中国語インターネット用語にはなかなかの味わい深いものがある.チャット=聯天室,オークション=拍売,株式市場=股市などがアイコンから読み取れる.株=股というのは日本語的にはびっくりもので,米国株式新聞は中国語では美股新聞となり,なんとも怪しくなってしまう.
アイコンはリンク先の内容を抽象化したものだから,その先のページに出てくる用語の意味もだいたいわかってくる.先の「短信」の先を見ると,もっとユニークな業界用語が出てきた.携帯電話の着メロは「手機鈴声」と表記するらしい.まだまだあるのだが,この先は読者の練習問題として残しておこう.
サーチエンジンも多言語対応
Yahoo!のようなリスト型の情報サービスで,単語のだいたいの意味合いが読み取れるのだが,自分が理解している意味が正しいかどうかを確かめる方法が必要である.そこで出てくるのがGoogleなどの検索エンジンである.実際に試してみて驚いたのだが,Googleは中国語と日本語の壁を越えて検索してくれる.検索エンジン内では中国語と日本語の文字の区別がなされていないらしい.Unicodeはそういうコード体系だから,Unicodeで内部データベースを作っていれば自然にそうなるのである.
Yahoo!のアイコンや分類でだいたいの意味がわかったら,今度はそれをGoogleで探索して用例を確認できてしまう.もちろん,確認するためには中国語の知識がある程度必要になるが,まれには英語や日本語の対訳が付いているのである.Unicodeによる多言語文字の統一は,ローマ字文化圏による言語文化侵略のようにいわれることが多いのだが,このように言語をまたぐ検索ができるようになるというご利益もあるのである.
今回の話題は,Yahoo!も見方によってはロゼッタストーンに見えるというところから始まったのだが,なぜこんな使い方ができたのだろうか.何のことはない,アイコンという画像に必ず注釈がテキストでついていたということなのである.Yahoo!のデザインはテキスト中心になっている.すべての画像に解説文字をつけるというのは,Webページのユニバーサルデザインでは基本中の基本である.だから,多言語の関連付けができたともいえる.やっぱり基本は大事である.
やまもと・つよし
北海道大学大学院工学研究科電子情報工学専攻
計算機情報通信工学講座 超集積計算システム工学分野
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