しかし,この数年で加速したグローバル化により,製造業,組み立て工程や量産ラインは徐々にシリコン・バレーから去っていった.90年代後半から2001年のインターネット・バブルになっても,とくに学歴や経験がない人でもネット関係の起業に参加できるような時期があった.本当に初期のころで,ペット・フードや生鮮食品をネットで販売したり,場合によっては配達スタッフや電話番がたくさん必要だったし,ポータルでは人間がカテゴリを決めたりと人海戦術で対応していた.したがって,学歴や経験を問わなかったのかもしれない.
ネット・バブル絶好調の時期には,地元のファスト・フードやレストランで働く人が足りない状況が一時期あった.多くがネット企業に勤めはじめていたからだ.「だれでも参加できるシリコン・バレー」がもっともっと拡大するような雰囲気だった.半導体やコンピュータからネット中心に移行したニュー・エコノミーでも学歴のない人たちがたたき上げでのし上がっていくのかと思いつつ,バブルは弾けた.この間,グローバル化はさらに加速化して,コスト削減のため,製造業以外にサービス業もアメリカ国外へ出る流れができた.
最近ではだれもがGoogleがシリコン・バレーを代表する新しい企業だという.株価も上昇しているし,勢いもある.とにかく話題に欠けない会社だ.もう一つ特徴があり,高学歴でないと雇ってもらえないことでも有名だ.似たような会社では4年制の工学部卒の学士か修士を持っていればOKであるが,Googleはあえて博士号を要求する.また,ビジネス系のポジションでも最低MBAを必要とするケースが多い.徹底して高学歴をポリシとする会社のようだ.
Googleとよく比較されるもう一つのシリコン・バレー発のネット企業,Yahoo!と比較するとよくわかる.Yahoo! がメディア企業をめざしており,技術力はそれの手段や道具の一つとして捉えていることと対照的に,Googleはすべてを技術力で解決することをポリシとしていて,新しい技術にこだわり技術力にこだわる.たとえば,ニュースも人手を通さず供給するのが当たり前としている.一方のYahoo!はメディア会社として監修や編集を行うことに価値があるとする.Googleは技術力にこだわり,そこから出た雇用のポリシが高学歴だったようだ.元々シリコン・バレーには現場主義のような風土があるから,多少は突出したポリシかもしれない.今後,Googleのようなポリシの会社がシリコン・バレーの主流になれば,学歴や経験のない人たちが参加できなくなり,「だれでも参加できるシリコン・バレー」ではなくなり,おもしろくないようにも見える.
グローバル化が進んだ今では,本社機能だけシリコン・バレーに残し,企画・仕様を決めて実際の設計,実装,プログラミングなどはすべてアメリカ国外で行うという会社が当たり前のようになってきた.または海外のパートナ企業と協力するのが当たり前になってきた.複雑な製品を一社だけで作るのは無理な時代になってきたからだろうか.
ソフトウェア・ツールの会社で本社は20名ぐらい,そのうちの5名程が仕様やコンセプトを考え出すエンジニアで,インドのエンジニアリング部隊の100名が実際のコーディングにあたっているということが当たり前になってきた.エンジニアリングやモノ作りをしなければ,本当にシリコン・バレーで何が残り,何を特徴としていくかが大きく疑問視されつつある.ただシリコン・バレーの活力でもある,「だれでも参加できるシリコン・バレー」という間口の広いところは残って欲しいと思う.
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