前節でも述べたように,この形のプロセッサは学術的には興味をひくものですが,まだまだ実用面からの支持を多く得るには至っていません.その理由は,以下のように並べることができます.
- たとえC言語から直接回路が構成されるとしても,チップの特徴を考慮しないわけにはいかないため,各ベンダ間での相互の流用が困難である
- 量産用途ならフルカスタムやMeP方式のほうが単価が安くなる
- 高速処理をうたう特殊用途や計算力ならば従来の超並列プロセッサが,あいまいな判断なら後の節で紹介するFIEなどが競合技術として登場してくる
では,このようなプロセッサをどのような用途に使えばよいのかという観点から考えると,以下のようなことが浮かびます.
- 学習機能付きパターン認識
- 動的データ圧縮・伸長
- 低S/N比信号からの情報検出
車載用など,多くの用途はあるでしょうが,とりあえず一つの応用例について可能性を探ってみます.
パターン認識技術はコンピュータが出現したばかりのころから追いかけられてきた開発テーマです.実際にセンサ技術の発達とプロセッサの多機能高速化によって,パターン・マッチングによる認識技術はかなりの水準に達しています.
しかし,たとえば医療の世界では超音波,CT,MRI,PET,各種内視鏡の普及で,レントゲン写真だけだった時代と比べて,非常に速いスピードで画像の量が増えています.これらの画像を読んで病巣を探す検診水準の需要は,担当医師の不足だけでは論じられないほど差し迫っています.
医師が生画像を見る前に何らかの機械化が必要ですが,人命にかかわるため誤判断が許されない,すなわち「疑わしきは罰する」方式で情報を提供しなければなりません.病巣の形態は千差万別なので,判断をゆるくすればほとんどすべての画像の全領域が医師の判断を仰ぐことになり,機械化の意味がなくなります.
ここでは,パターン・マッチングはたとえ同一人物の過去の画像との間であっても決定的な認識技術とはなり得ません.それは,同一条件での画像の取得が困難な部位が多いからです.
人体の画像情報は,さらに低S/N比の情報です.素人の患者や家族が,医師から説明を受けるときに図6のような超音波画像(エコー)を見せられても,何だかわからないのは医学的な知識の不足だけでなく,生の画像が複雑かつ境界不明でコントラストが悪いものが多いからです.
これらの画像から有効な情報を引き出して,医師に病気の疑いがあるかもしれないという示唆を与える,スクリーニング・システムの開発は,多くの医学研究者と医用画像機器ベンダで行われています.これらの技術を開発するために必要なものは,もちろん医学的な診断のノウハウなのですが,これは原理的に医師の診断から学習するシステムとなるでしょう.
造影剤の注入方法をくふうし,CTやMRI画像から三次元モデルを作成し,ディスプレイ上で回転しながら見ると,現在の技術でも臓器などの病変は目視で容易に判別できます.しかし,これをすべての健康診断の受診者に行うのではたいへんな手間がかかります.手術前の患者に対してさえも,この方法を適用している病院は少ないようです.
演算・判断の構成が処理中のデータに応じてに自由に再構成できるプロセッサを,医師が日常使っているパソコン水準のコンピュータに付加することで,診断に携わる医師から短時間で多くの実践的な情報を収集できるかもしれません.
とにかく,動的再構成可能プロセッサは,東京大学の天体シミュレーション用のGRAPE6や後の節で紹介するFIEなどのように,特定の需要があって考え出されたものではなく,開発先行の気配が濃厚なので,普及にはキラー・アプリケーションが不可欠であると思われます(図7).
|