副業することを俗にMoonlightingと呼ぶが,これを完全に禁じている社則がほとんどだ.Anti-Moonlightingと呼ばれている.ほとんどの会社がAnti-Moonlightingについて社則で示している.一般に,シリコンバレーのエンジニア達は会社勤めをしながら夜や休日に次のベンチャーについて考えているというイメージがあるが,これは企業側からしたらとんでもないことになる.
アイデアを起こしたりするなら,厳しく会社のリソースや時間を使わないようにすることが大切だ.前述の“Clean Room Design”に近い考え方が肝要である.仲間達とアイデアと練ったりする場合は,絶対に会社のメール・電話を使わないとか,会う時間を就業時間以外にとるとか,会う場所も個人宅にするなど,さまざまな注意を払う必要がある.
最近は,退社した後にAnti-Moonlightingでやられる場合が多くなっているそうだ.たとえばこういうケースらしい. 円満退社後,起業することになる.そのベンチャーが軌道に乗ってきて大成功する,以前の勤め先の仲間達がたくさん入社したりする.そうして以前就職していた会社が訴えて金になるとふめば,Anti-Moonlightingをタテに訴訟を起こそうとするらしい.
Anti-Moonlightingに関係する書類で,Non-Competeという退社直前にサインを要求される書類がある.これは,退社後類似の製品を作ったり競合になったりはしません,という内容に承諾するものである.法廷側は,このNon-CompeteやAnti-Moonligh
tingが自由競争を束縛するものだとしてあまり良い顔をしない傾向にある.適用・行使されるかどうかは別として企業・雇用側としては,なんとかして自社の利権を守ろうとしているわけである.神経質になりすぎる必要はないが,常識的に会社のリソースが何であるかをしっかり頭に入れておけば問題は起こらないと思う.
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ハードウェア寄りの企業より,ソフトウェアやインターネット関連の企業が多くなった現在のシリコンバレーでは,ちょっと以前のハードウェアの設計で徹底的に差別化するよりもアイデア重視になりつつある.その中で法的なルールをうまく用いて市場に先乗りしたり,競合に遅れをとらせる(競合の足を引っ張る?!)ようなことができればよいといった,アイデアを紙上でまず戦わせるような土俵になってきたのかもしれない.そういう意味で,エンジニア達の法務に対する理解や興味は高くなりつつある.
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