新卒業生をNew Graduateと呼び,俗語で「New Grad」という……日本の「新卒」と同じだ.日本に比べるとアメリカの企業はそうまとめて新卒を採用しない.これには,さまざまな理由があるかと思う.まず企業側がかなりスリム化していること,エンジニアリングの分野の変化が速いので,のんびりと新卒を雇って立ち上げるという余裕がないということだ.筆者が卒業した1980年代でさえ,新卒をまとめて年間数十人単位で採用するのは,IBM,Motorola,GEという当時の有名企業の特徴だった気がする.
結局,筆者の入った半導体ベンダでは,筆者が入る2年前から大幅に新卒の数を増やしたので,株主に配るアニュアルレポート(annual report)にデカデカと写真入りで説明が書かれた.ニュアンスとしては,「新卒を10名も採用し,弊社もやっと一流企業の仲間入りをしました」という感じの説明だったと記憶している.
もう一つの理由として,大学生は単位が取れた段階で即卒業になるので,必ずしも6月の卒業シーズンに学位を取るということでもないことだ.とくにエンジニアリングの分野だと,3年生か4年生になってから行うインターンなどで6か月から12か月ぐらい同級生と卒業がずれる人が多い.また最近では,学費稼ぎと企業経験を積むためにインターンやバイトをしながらのんびりと5年から6年かけて学士を取る学生が増えていると聞く.インターネットのおかげで出社しないでよい技術的なバイトが増えたのと,即戦力にならないとなかなか良い職に就けないという現実もある.
エンジニアリングの分野は即戦力としての人材を求めているので,中途採用と新卒の区別や扱いの差はほとんどないと考えてよい.新卒と経験が浅いジュニアエンジニアは大体同じ枠で考えられる.一般的な目安としては,実務経験2年以下はジュニアエンジニアとみなされる.まとめると,以下のようになる.
・新卒とジュニアエンジニア=まだ経験が浅いため,給与も低い
・中途採用=経験豊か,給与は経験とスキルに比例
例外は,博士号や修士号を終了した新卒で,かつ何か新しいアイデアをもっている人達だ.基礎研究部門に入るために在学中の研究内容に期待がもたれる.とにかく個人の知識やスキルレベルによって待遇もまったく違ってくるので,時期的に入社した人を同期と考えたり,後から入って来た人を後輩だとか考えたりする慣習がまったくない.すべては個人の内容によって判断される.
アメリカの企業では,自分の上司がすべての人事権や予算権をもっているので,必要に応じて採用を行うことが多い.雇用の判断を下すマネージャが予算に応じて決めるわけだ.
たとえば中途採用のエンジニアの年俸が10万ドルとして,ジュニアエンジニアが5万ドルとする.予算が10万ドルあったとすると,現在抱えているプロジェクトやチームメンバーの内容によっては,さほど技術力を必要としない「力仕事」が多いので,それほど経験が必要ないとする.そこでジュニアエンジニアを2名雇ったほうがよいと考えた場合,ジュニアエンジニアや新卒でスタッフを満たすというシナリオになる.逆に技術的に濃い内容の仕事で経験がものをいうと判断した場合は,迷わず中途採用のエンジニアを探す.現場の管理職エンジニアの采配や権限で物事が進められる.逆に実務経験を有する職種では,新卒やジュニアエンジニアを雇わないというポリシーを設けている企業もある.
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